メリー・クリスマス!陽気に参りましょう。今日はMCハマーです。

 覚えておいででしょうか。90年当時のMCハマー人気は凄まじかったです。マイケル・ジャクソンと並べられるほどの人気を誇っていて、このアルバムは何と1000万枚以上も売れました。ヒップホップのアーティストとしてはもちろん初の快挙です。

 当時から来日すると歌番組やバラエティー番組に出演するという軽さが持ち味でした。強面のイメージが強かったヒップホップを、黒人サークルを超えて広く大衆化した功績は大きいのですが、これほど皆の踏み石になった人も珍しいです。

 デビュー作とこの作品とで得た巨万の富を蕩尽しつくして自己破産するという見事な浮き沈みぶりもポイントが高く、この人のことは思いっきり揶揄してよいということに世間では了解されていました。皆さんいじり邦題でした。

 もともとヒップホップの大衆化という行為自体がコアな黒人層からは白眼視されていたわけで、当時のラップ・アーティストはこぞってMCハマーのことをクソみそに言っていました。ハマーさんもそれに煽られて路線を変更しましたが、それが裏目に出ての転落人生です。

 しかし、ほとぼりは冷めました。2014年のアメリカン・ミュージック・アウォードで江南スタイルのサイと共演して熱狂を巻き起こしたことは記憶に新しいです。一回りして懐かしさが勝つようになりました。

 この作品からは、今でも彼のトレードマークとなる「U・キャント・タッチ・ジス」の大ヒットが生まれます。リック・ジェイムズの「スーパー・フリーク」を大胆にサンプリングした素晴らしい楽曲です。当然全米1位にもなりましたし、今でもヒップホップの代表曲です。

 彼の場合は何が衝撃的だったかと言えば、そのキレキレのダンスでした。当時、ヒップホップと言えば、世間的には音楽と言うよりもダンスのことだと思われていました。そのダンスとラップを大胆に結びつけた、要するに歌って踊ったところが実に新鮮だったんです。

 世の中にハマ男と呼ばれる模倣者を多数輩出する人気ぶりは凄かった。新しいものに出会ったと感じた人がいかに多かったかということです。加えて、当時のコント赤信号小宮の物まねを始め、今でも時々物まねの題材となるほど、記号的な特徴を備えてもいました。

 今となってはほとんど一発屋扱いですけれども、このアルバムは21週間にわたって全米1位となったわけで、仮に一発屋だとしても桁違いです。世間の認知度も桁違いに大きい人で、今でもヒップホップ界の代表だと思っている人もいるのではないでしょうか。

 アルバムは全体にパーティー・ラップというのでしょうか、見事にお化粧された、典型的な初期のヒップホップです。といいますか、これが当時最もポピュラーなヒップホップだったわけですから、多くの人にはこれが基準となっています。

 プリンスやアース・ウィンド&ファイヤー、ジャクソン5のカバーと選び方もとっても大衆的です。サービス精神に溢れた見事なエンターテインメント作品です。これはこれでよかったのにヒップホップ界の原理主義者に耳を貸したのが失敗の元でした。

Please Hammer Don't Hurt'Em / MC Hammer (1990 Capitol)