警察関係者や裁判関係者と一緒に仕事をすることはありますが、幸いにしてこれまでの人生で刑務所のご厄介になったことはありません。そんなことになったらこの世の終わりではないかと思ってしまいますが、実際には世の中は終わりません。続いていくわけです。

 1980年11月にリーダーのモモヨが逮捕されました。1か月後に勾留はとかれましたが、世間の風は冷たかったようです。一方で、そういうことに憧れる無責任な人もいます。両方から普通じゃない視線を浴びせられるわけで、彼を巡る状況はなかなか厳しかったようです。

 キング・レコードとの契約は解除されてしまいましたが、捨てる神あれば拾う神ありで、トリオ・レコードからめでたくオファーがあり、モモヨは当時の心境を素直に吐露したアルバムの制作を企図します。

 そうして発表された作品がこの「ジムノペディア」です。めでたく発表されましたけれども、バンドはほぼ解体されていて、モモヨとベースのワカの二人になってしまいました。本作制作時にはまだドラムのベルはメンバーとして参加していますが、発表後に脱退しています。

 それ以前にギターのカツも脱退して、その代わりに入った元螺旋のキタガワは、本作でギターを弾いていますが、メンバーとしてのクレジットはありません。何だか複雑な様相を呈しています。不信感が渦巻いていたんでしょうね。

 しかし、この作品は傑作です。私は発表当時から愛聴しております。これまでのリザードとはかなり趣を異にしていて、モモヨのソロ作品的な色彩が濃いです。バンドの解体過程での作品ですから、緊張感が漲って傑作が生まれやすい状態が出来ていたのだと思います。

 古川博一氏の言葉を借りれば、「サイケデリックス、アニミズム、現代詩、ダダといった様々な要素が投げ込まれ、深遠な世界に降りていった、スピリチュアルな名作」です。荒涼とした空気の中に文学的な香気が漂う作品です。

 アルバムには、各楽曲の歌詞と写真で構成されたブックレットが付属しています。モノクロの写真を使ったブックレットはなかなかの傑作です。ジャケットもそうですが、光と影の世界にぼやけた輪郭のモモヨがアルバムの心根を語っています。

 東京ロッカーズのベース奏者と言えば、フリクションのレックがいるので、あまり目立ちませんが、ジャン・ジャック・バーネルとタメをはるワカさんのベースもなかなかのものです。エコーの少ないぶきぶきの骨太ベースがアルバムの背骨となります。

 そこに浮遊感漂うキタガワのギターとウルトラヴォックス的なモモヨのキーボードが寒々とした光景を描きだします。モモヨの歌は歌詞を噛みしめるようで、詩人としてのモモヨの姿を浮きだたせています。

 ポスト・パンクの地平に立ち尽くす裸のモモヨがここにあります。これまで様々なスタイルを試してきたモモヨが、たどりついたところがここです。同時代のニュー・ウェイブ勢と同じ範疇にあるサウンドですが、重くて深い穴が空いていて、覗き込むのが恐ろしいです。

Gymnopedia / Lizard (1981 トリオ)

見当たりませんでした。悪しからず。