首をうなだれている人としゃがみ込んでいる人がフロントマンです。このジャケットの印象が強いので、つい間違えてしまいます。それだけでもちょっと変わったジャケットだと言えます。パンク的ですね。

 この作品は、日本ではストラングラーズの最高傑作として人気の高いアルバムです。特にアルバム発表後に行われた来日公演の伝説度が高く、それと共に語られることが多いです。本格的パンク・バンドの初来日でもありました。

 私は残念ながら行っていないのですが、東京で行われた3回のコンサートは、乱闘騒ぎが起きたりして大荒れだったそううです。3日目は「サムシング・ベター・チェンジ」を5回続けて演奏して、帰っちゃったということで、さぞや衝撃だったことでしょう。

 ところが京大西部講堂はスタンディングだったので問題がなかったそうで、「座席があるからトラブる」という彼らの発言は、オール・スタンディングが普及している今、その正しさが証明されています。よく考える人たちでもありました。

 そうしたエピソードに見られるように、暴力的な空気がついてまわっていた彼らですが、今になって、当時はどうかしていた、というような反省の弁を述べています。全員がパラノイドになっていたんだということです。

 そんな中で制作されたのがこのアルバムです。小野島大さんのライナー曰く「ロックの最も根源的な暴力衝動、あたりをすべて破壊しつくし、燃やし尽くす極限的な破壊衝動に聴き手を駆り立て、挑発し、凄まじく高揚したテンションに導く」アルバムです。

 あの渋谷陽一さんまで「今聴いても私は非常に狂暴な気持ちになる」と語っています。前作が分かりやすいパンク仕様で比較的ポップだったのに対し、この作品は実験的ではあるものの、よりパブ・ロック的で武骨なロックとなっていますから、確かに暴力度はましています。

 英国でもヒット・チャートの2位まで上がり、18週間もチャート・インしたという彼ら最大のヒットとなったわけですが、後の世の評価はさほど高くないようです。彼らはパンクの伝説にはなりませんでしたから、普通のロック・バンド扱いなんですね。扱いが小さい。

 このアルバムからは「ナイスン・スリージー」がシングル・カットされてヒットしました。レゲエを基調とした名曲で、イアン・デューリーが歌っていてもおかしくないパブ・ロック仕様です。ヘビーな曲調で、確かにアルバムを代表する楽曲です。

 日本にとって大きな話題の一つは三島由紀夫に捧げられた「デス・アンド・ナイト・アンド・ブラッド」でしょう。ジャン・ジャック・バーネルは三島由紀夫にぞっこんだったんです。空手の有段者でもありますし、日本人としては喜ぶべきことです。

 ジャン・ジャックのリード・ベースとデイヴの変態キーボードが暴れまわりますが、基本は正統派ロックの力強いアルバムです。日本ではあまりの伝説度に、次作以降続く息の長い活動が、すべてエピローグのようになってしまいました。伝説も功罪あるものです。

(引用は「ロック・ベスト・アルバム・セレクション」渋谷陽一、新潮文庫より)

Black and White / The Stranglers (1978 United Artists)