名盤中の名盤、ジャズの基本中の基本だろうと思います。ジャズには長い歴史があるので、これも最初期というわけではなくて、モダン・ジャズの範疇に入る作品ですけれども、私ですら生まれる前の作品ですからもはやクラシックです。

 セロニアス・モンクは言うまでもなくモダン・ジャズの巨人ですけれども、ひときわユニークな個性の持ち主として知られています。一言で言うと変なジャズを奏でる人だということです。ジャズ・ピアニストとして、はたまた作曲家として孤高の人だとの評判です。

 この作品はモンクの作品の中でも最も有名な作品ではないかと思います。岡崎政通さんのライナーでも「モンクの独創性が最高に発揮された作品で、数ある彼の傑作アルバムの中でも最右翼にランクされる一枚」と評されています。

 ただし、ここで示される彼の独創性ないし革新性というものを、今の時代から振り返って味わうにはかなりジャズの話法に精通していることと、ジャズの歴史に深い造詣を持っていることが前提になります。同時代でないので、そう言われても分かりにくいんですよね。

 私のようなジャズ門外漢からしてみれば、十分に正統派ジャズです。この時代特有の空気感が録音によって醸し出されていて、まさに王道中の王道、モダン・ジャズ・クラシックスという感じが強くいたします。

 全5曲のうち、タイトル曲を含む最初の3曲が、テナーにソニー・ロリンズ、アルトにアーニー・ヘンリー、ベースにオスカー・ペティフォード、ドラムにマックス・ローチという凄い顔ぶれによる演奏です。モンクはピアノの他にチェレステも弾いています。

 次の曲はピアノのソロ、最後の曲「ベムシャ・スウィング」はロリンズ、ローチはそのままに、トランペットにクラーク・テリー、ベースにポール・チェンバースのクインテット演奏となっています。一気通貫ではないところが面白いところです。

 冒頭のタイトル曲がやはりハイライトでしょうか。モンク自身の作曲による楽曲で、結構演奏する者にとっては難しい曲なんだそうです。変則的なテーマが2回繰り返されますが、2度目は倍のテンポになっています。そこが変度を上げているところです。

 いつもながらソニー・ロリンズの豪快なブロウが響き渡っていますが、難曲だからということなのか、決してリーダー作ではないということがよく分かって面白いです。アルトのヘンリーとのバトルにも完勝という雰囲気は全くありません。モンクの土俵の上ですね。

 3曲目の「パノニカ」はチェレステが登場して、ぶっといサックス陣を懲らしめています。何だか面白い曲です。ピアノ・ソロ曲では理系な響きがしています。スタンダード曲ですけれども、その響きはとても理知的です。

 力強いピアノがこぼれてくるスリリングな作品だと思います。あの頃にしかあり得なかった頂点を極めた作品の一つなんだろうと思います。ジャズは一旦ここら辺りで完成を見てしまったということなんでしょうね。

Brilliant Corners / Thelonious Monk (1956 Riverside)