ジャケットの絵はいつものカル・シャンケルではなくて、ラリー・グロスマンです。とってもアメリカンな絵です。彼はバイクや自動車などが得意なアーティストで、イメージは50年代や60年代のアメリカな感じです。

 88年バンドの3部作の最後を飾るアルバムがこの「メイク・ア・ジャズ・ノイズ」です。このバンドはホーン・セクションが5人もいるので、何でもできます。ビッグ・バンドで演奏した「ビッグ・スイフティー」や、オーケストラ作品の「ストリクトリー・ジェンティール」や「デュプリーの天国」なんていうところまでカバーしています。

 さらに「ウェン・ヤッピーズ・ゴー・トゥー・ヘル」は、ザッパさんの現代音楽的な作品ですし、バルトークやストラヴィンスキーの楽曲まで顔を出します。最初の2枚が比較的ロック寄りだったのに対し、この3作目ではそうした非ロック系の楽曲が中心です。

 もちろん「ザ・ブラック・ページ」や「キング・コング」などの代表作も含まれていますが、オリジナルとは随分と表情が違います。「ランピー・グレイヴィのテーマ」が入っていると言えば、ファンの方なら見当がつくのではないでしょうか。

 ただし、冒頭は「スティンク・フット」です。3部作を通して、ジミー・スワガート師がやり玉に挙がっていますが、ここで初めてスワガート師が捜査を受けているとMCで語っています。今回はここだけなのですが、ザッパ先生がいかに溜飲を下げたか分かります。

 今回のツアーではシンクラヴィアを同道していたそうです。そのせいもあって、音がこれまでのツアー音源とは少し違うのかもしれません。このツアーの音はどことなくサイバーな感じがするんです。

 特にチャド・ワッカーマンのドラムはまるでマシーンのように響きます。また、特徴的なのはギターのクリア・トーンで、シンセを通しているとのことですが、こちらもかなりサイバーな響きです。音の組み立て方もこれまで以上に現代音楽的です。

 ホーンが大々的にフィーチャーされて、アンサンブルの妙技も冴えわたっているのですけれども、ロック的な熱さは皆無です。この後のザッパ先生の活動は、ロック・バンドを離れて室内楽団との「イエロー・シャーク」になるわけですが、とても素直な道行に見えます。

 88年ツアー当時、ザッパ先生は自らの癌をすでに知っていたということです。先が長くないことも分かっていたでしょうから、ツアーに出た先生の心中やいかに。88年バンドはしばしば最高のバンドだと言われますが、集大成として徹底したリハーサルで鍛え上げた先生の意気込みの表れでしょう。

 繰り返しになりますが、ロック的な熱さはありません。「スティーヴィーズ・スパンキング」のような猥雑を絵に描いたような曲でも、とてもクールです。ツアー全体がそうだったというよりも、この三作目が特にそうですから、ここはザッパ先生の編集によるのでしょう。

 ツアーの総仕上げ作品がこういう作品であることに意味深いものを感じます。

Make a Jazz Noise Here / Frank Zappa (1991 Barking Pumpkin)