「究極」に続くイエスのアルバムは「トーマト」という何だかよく分からない変なタイトルが冠されました。もともとはイエス・トールという実在の岩山を指す言葉をタイトルにする予定だったそうで、あまり目立ちませんが、その岩山の写真がジャケットに使用されています。

 しかし、ジャケットを見たある女性がトマトを連想したことから、イエス・トールとトマトを引っ付けた上でイエスを落とし、「トーマト」が誕生したとのことです。アルバムの内容とは何の関係もない話ですけれども、この頃の彼らの気分が垣間見える感じがします。

 ジャケットは再びヒプノシスが担当しました。さすがはヒプノシス、なかなかの傑作だと思います。大胆に顔をカットした構図といい、色合い、トマトの崩れ具合など、バランスは素晴らしく、彼らの作品の中でも上位に位置する傑作だと思います。何やら不思議な作品です。

 本作品は前作から約1年を経て制作が開始され、半年かかって発表にこぎつけています。今回は前作からメンバー・チェンジがありませんでした。イエスの場合、全く同じメンバーで2作続けるというのは珍しく、大変久しぶりのことなのでした。

 作風は前作をさらに推し進めたような形になっていて、A面、B面4曲ずつと、短めの曲ばかりが収められています。これも久しぶりのことです。各楽曲はスリムにまとめられていて、かつてのドラマ性はありません。ロックでポップなプログレ路線です。

 各楽曲のタイトルの中には、日本人としては複雑な気持ちになる「クジラに愛を」だとか、「UFOの到来」なんていう、これまでのジョン・アンダーソンを知る者にとっては驚きのポップさが溢れてきています。UFOではあっても俗世間にアンダーソンが舞い降りてきました。

 「天国のサーカス」ではアンダーソンの息子さんが歌っているというエピソードまであって、プログレ・イエスのファンを途方に暮れさせました。お茶目な姿勢がどんどんエスカレートしてきましたが、似合わない気もします。ちょっと無理があるかも。

 この作品は、アマゾンのカスタマー・レビューなどを見ると、意外に人気があることが分かります。レコード・コレクターズ誌でも、「中期イエスの代表作に挙げる声が多い」と書かれています。私としては意外ですが、世間では結構な人気を誇っているんです。

 一方で、前作に引き続いてセルフ・プロダクションとなっていますが、そのプロデュースが弱いと批判されることがあります。メンバーも、方向性を見失っていたと言う言い方をすることがあります。前作にあったまとまりがないということなのでしょう。

 セールスは前作ほどではありませんでしたけれども、世界中でトップ10ヒットとなっています。日本では以前ほどは売れず、当時の扱いは冷たかったと記憶しています。プログレ王国ですからね、日本は。イエスには重厚長大でいてほしいと私も思っていましたから。

 私は圧倒的に前作が好きです。イエスのメンバーはさすがに達者な人たちばかりですから、水準以上のアルバムにはなっていると思いますが、前作ほどは歓びがあふれ出てはおらず、何となくメンバー間の折り合いがよろしくないのではないかと思ってしまいました。

Tormato / Yes (1978 Atlantic)

*2014年11月29日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. a) Future Times 輝く明日
b) Rejoice 歓喜
02. Don't Kill The Whale クジラに愛を
03. Madrigal
04. Release, Release 自由の解放
05. Arriving UFO UFOの到来
06. Circus Of Heaven 天国のサーカス
07. Onward
08. On The Silent Wings Of Freedom 自由の翼

Personnel:
Jon Anderson : vocal
Chris Squire : bass, vocal
Rick Wakeman : keyboards
Steve Howe : guitar, vocal
Alan White : drums, percussion