ジャケ買いでした。おどろおどろしいロゴといい、中央に立つ長髪のギタリストといい、黒を基調とした写真といい、誰が見てもヘビメタだと思うんじゃないでしょうか。ところがそうではありませんでした。期待は裏切られましたが、素敵な音楽との出会いは果たされました。

 メカール・ハサン自身がウェザー・リポートなどに影響を受けたと語っている通り、この作品はあの頃のジャズ・ロックに近いです。演奏も達者です。良質のジャズ・ロック・サウンドに伝統的なスーフィー・スタイルのボーカルが響く東西融合のフュージョン音楽です。

 歌詞やメロディーには伝統的な北インドの古典音楽、すなわちヒンドスタニーのそれが使われていますが、演奏スタイルは英米のジャズであり、ロックであり、フュージョンです。悠揚とした大陸的な演奏がとても素晴らしいです。

 メカール・ハサン・バンドの中心人物メカール・ハサンは、パキスタンのラホールに生まれています。ラホールはインドとの国境近くに位置する大都市ですね。しかし、その後、ハサンはアメリカに渡ってバークレー音楽院で学びました。

 パキスタンに戻ったのは1995年のことで、録音スタジオを建設してパキスタンの数々のアーティストの録音の用に供したといいますから、立派な人です。エンジニア、プロデューサーとしても一流なんですね。

 ハサンは2001年に英国人パーカッショニストのピート・ロケットとコンサートを行いました。ピートは、ピーター・ガブリエルやビョークなどとも共演している実力派で伝統的な打楽器を使いこなすことにおいては定評のある人です。このアルバムでも演奏しています。

 このコンサートが好評を博したことからハサンはバンド結成を決心したそうです。お相手はキーボードのジャヴェド・アクタールです。ボリウッドに有名な作詞家で同名の人がいますが別人です。当たり前ですが。

 バンドの編成は、ドラム、ベース、ギター、キーボードと典型的なロック・バンドのそれですが、ユニークな点はフルートの存在です。またボーカルはボリウッドでも活躍しているジャヴェド・バシールです。このフルートとボーカルが南アジアっぽさを醸しています。

 ハサン自身は作曲とギターを担当しています。このギターが上手です。プログレ的、メタル的で、同じバークレー出身のドリーム・シアターのジョン・ペトルーシを思わせないでもありません。とても綺麗な音です。ブルース臭は全くなくて、ヨーロッパのジャズ・ロックに近いですね。

 そして、伝統音楽のノリが熱いです。早口で無意味なシラブルを連打する伝統的な歌唱法タラナを駆使したボーカルがいいです。そして各楽曲は古典音楽のさまざまなラーガを組み込んで出来ています。ラーガはインド古典音楽の基礎。旋律を構成するシステムです。

 この作品はジャズ・ロックとインド古典音楽が実に自然に上品にフュージョンされていて、とても素晴らしいです。デビュー作にしてパキスタンのトップ・バンドに躍り出た記念すべきアルバムです。大らかな大地を思わせる悠揚たるサウンドは唯一無二です。

Sampooran / Mekaal Hasan Band (2004 EMI)