薄暮の頃合いに「湾岸を東京から千葉方面に」ドライブすると、いつもこのアルバムの一曲「TRON岬」が頭をよぎったものです。サエキさんのセルフ・ライナーが頭に刷り込まれてしまっているということです。ただ、大抵渋滞でしたけどねえ。

 この作品はパール兄弟のセカンド・アルバムです。私にとってはパール兄弟初体験となったアルバムで、何度も聴いただけに、会社の同僚にも大いに薦めたものでした。変な人だと言われながらも、結果的に何人かファンを獲得することに成功しましたよ。

 前作とはメンバーは変わりませんが、こちらはゲストが多くなりました。作曲のクレジットは前作が窪田晴男一人だったのに対し、今回は他のメンバーも参加しています。しかし、編曲は窪田さん一人の名義になっていまして、窪田ワールド全開度はこちらの方が高いです。

 各楽曲に設定された音のテーマがあるように思います。ただし、最後の曲「DISCO鎮魂巻」は、アルバムのために用意したテーマを使いきれない恐れがあるということで、一曲にさまざまなアイデアを盛り込んだメドレーになっています。

 「YMCA」に始まって、PILの「フラワーズ・オブ・ロマンス」の一曲が現れたり、さらにはレゲエ調のリズムが使われて、それこそ多彩な表情です。そういえば「鎮魂巻」は当時のヒット作「金魂巻」のパロディーですね。

 サエキけんぞうの歌詞の世界はむしろ分かりやすくなりました。近未来の千葉シティーを描いた「TRON岬」の♪海だったよね、この辺♪なんてくらっときますね。何だか切ないです。切ないと言えば、アルバムの白眉となるトラック「風にさようなら」が光ります。

 この曲は前年に自ら命を絶った某アイドルのことを歌った歌とされています。♪ごめんね、こんなに遠くから♪の一節がとても切ないです。私はさほどファンではありませんでしたが、謝りたくなる気持ちはよく分かります。

 サエキさんはこの他にも謝ってばかりです。とても心優しい人なんだろうと思います。後にモーニング娘。のデビュー曲を手掛けることになるサエキさんの歌詞は「キラメキ一発!明・朗・快・軽ロック主義」ですが、優しさに裏打ちされているところが素敵です。

 サウンドは、前作に比べると、コンピューターも駆使していてゴージャスな作りとなっています。リズム隊は相変わらずタイトなリズムを繰り出していますが、前作よりもバンド感が希薄になってきている気がします。

 むしろ窪田晴男の世界が深まって来ているのだと思います。今回改めて聴いてみて、千変万化のギター・サウンドに耳を奪われました。歌謡曲にロックにスカにと、随分器用に様々なスタイルを弾きこなしている様子で、全く飽きさせません。

 私にはパール兄弟の最高傑作なんですが、世間の評価はさほどではないようです。この頃、ピンクとパール兄弟をよく聴いていまして、日本のロックを再発見していた頃でした。日本ロック史に残る名作だと私は思います。

パールトロン / パール兄弟 (1987 ポリドール)