ジャケットは三保の松原で撮影されています。なり切っていますね。清水の次郎長でしょう。ジャケット裏では、股旅兄弟に扮したサエキけんぞうと窪田晴男、そして和尚と武士に扮したバカボン鈴木と松永俊弥が富士山をバックに三保の松原で小芝居しています。

 「『エレキでもどうだい!』新世紀最強のロック・ユニット登場!!」と謳われたパール兄弟のデビュー作品です。フロントの二人は、サエキけんぞうがハルメンズ、窪田晴男が近田春夫&ビブラトーンズの出身です。当時のニュー・ウェイブ・シーンで活躍していた二人です。

 その意味ではささやかながらもスーパーグループ的な扱いがされていて、それが故に「最強のロック・ユニット」なんですね。私も何となく期待させられました。結果的には期待に違わぬ、というか、期待を超えた作品でした。

 一般にパール兄弟はテクノ・ユニットとして一言紹介されることが多いです。しかし、別にシンセばりばりというわけではありませんし、基本的には窪田さんのギターを中心としたしっかりしたバンド・サウンドですから、どこがテクノかということになります。

 どこがテクノか。一重にそれはサエキけんぞうのボーカルでしょう。何をどう歌ってもテクノになるという珍しいテクノ歌手です。きっと他の人が歌っていれば、テクノ・ユニットとは呼ばれなかったのではないかと思います。

 もともとバンド結成に至った合言葉が「無責任なバンドをやろう」ということだったようで、リズム・ボックスを使ったパフォーマンス的な活動をしていたそうです。ここに、リズム隊が入ってバンドらしくなり、このサウンドにたどり着いたということです。

 無責任さはそのまま踏襲されていて、ビッグ・バンド・ジャズのスタイルから、小唄や演歌、ハードロックなどが縦横無尽に展開されています。サウンド・オブ・ミュージックのフレーズも出てまいります。その一環がこのジャケットです。

 サエキさんは音楽評論家としても活躍されていますが、同世代なので基本的なところで共感するところ大です。それに色んなことに対する面白がり方がまさに同世代です。股旅もそうですし、サエキさんの独壇場となる歌詞がまさにそう。

 ただ、そこに感動するかというとちょっと違います。むしろ自分の若い頃の写真を見るようで、何だか恥ずかしい。とても80年代な感性なんですね。「バカヤロウは愛の言葉」、「メカニックにいちゃん」、「江戸時代の恋人達」とタイトルを並べただけで気恥ずかしいです。

 というわけで、何だかドギマギしてしまいますが、改めて聴いてみて、バカボン・松永のリズム隊がとてもキレがあって安定しているところに感動しました。ここをベースに窪田さんの千変万化のギターとサエキさんのテクノ・ボーカルが乗っかるわけです。見事なサウンドです。

 結成から3年。満を持して発表されたデビュー作ですが、スーパーグループですから、すでに完成度は十分高いです。ムーンライダーズの岡田徹のプロデュースで綺麗にまとまっていて、80年代の日本のロックを代表する作品となったと言えます。

未来はパール / パール兄弟 (1986 ポリドール)