スティーヴィー・ワンダー22歳の時の作品ですけれども、何とライナーによれば17枚目の作品です。どないなっとるんや、と言いたいところですけれども、スティーヴィーは12歳でデビューしていますから、おかしくはありません。

 しかも、そのお子様時代にすら全米ナンバーワン・ヒットを飛ばしていますから凄い。ここまでの10年間に27曲ものヒット・ナンバーを生み出しているということです。豊かな才能にあふれたスーパースターであることは間違いありません。

 この作品は、それほどソウル・ミュージックに親しみのない、ごく普通の日本人にとってのスティーヴィーのデビュー作品と言えるのではないでしょうか。私がそうだからというわけではありませんが、多くの人にとってスティーヴィーはここからじゃないですかね。

 何度見ても、「あれ、オルガン弾いてるんじゃないんだ」と思わせるジャケットに包まれています。それほどスティーヴィーとキーボードは切り離せないイメージがあります。リトルの頃はドラムを叩いている写真の方が有名ですが、大人になってからは断然キーボード。

 この作品ではこれが教科書だと言わんばかりのクラヴィネット・サウンドが聴かれますが、その陰に隠れながらもムーグ・シンセサイザーがいい味を出しています。この時期にこうしたムーグの使い方は斬新です。プログレ流の崇める使い方とは一味違います。

 スティーヴィーは1969年にボストン大学に入って作曲を勉強し直すと言う立派な道に進みます。自らの才能を分析的に見てみようという試みだったのではないかと推測します。よほど知的なアプローチをとる人ですね。それでいてファンクという凄い人です。

 この作品は3部作の始まりとなるスティーヴィー全盛期の始まりを告げる重要な作品となりました。「サンシャイン」と「迷信」というスタンダードとなった大ヒット曲ばかりではなく、アルバム収録の地味目の曲もCMで使われていたりすることに気がつきます。

 要するにスタンダードばかり。彼はとても自分に厳しいので何千曲も没となった曲があるそうです。選ばれただけのことはあるわけです。ワンダー家のごみ箱を探って没曲を失敬すれば、そこそこ売れる歌手になれそうですね。

 「迷信」はファンキーなクラヴィネットがとにかく印象的です。ジェフ・ベックのために書いたといいますが、ここまで完璧に演奏しておいて、それはないですよね。おわびに「哀しみの恋人たち」が贈られたということです。

 サウンドは、基本ファンキーなソウルですが、バラード系も素晴らしく、黒すぎないところがソウルの枠を超えた人気につながったのだろうと思います。歌は文句なくうまいし、演奏もはりがあってぴちぴちしていますし、全く古びることのない作品ですね。

 一人でほとんどの楽器を演奏していますが、デヴィッド・サンボーンやレイ・パーカー・ジュニアなどに加えて、ジェフ・ベックが一曲参加しています。ゲストの持ち味をさりげなく引き出した編曲がまたにくい。若いのに凄いです。

Talking Book / Stevie Wonder (1972 Motown)