天才子役という言葉をなぜか思い浮かべてしまいます。私が洋楽を聴き始めた1970年代前半には、スティーヴ・ウィンウッドは20歳代であるにもかかわらず、すでに功成り名を遂げていました。つまり若いのにもう一仕事終えた人でした。

 70年代後半のスティーヴは活動の端境期に当たります。ツトム・ヤマシタの「ゴー」では素晴らしい活躍を見せていましたが、何となくご隠居さんの趣味のような佇まいでした。要するに現役感があまり感じられない。

 そして、77年以降、アイランド・レコードから4作のソロ・アルバムを発表します。このうち2枚目と4枚目が大ヒットしまして、特に4枚目の「バック・イン・ザ・ハイ・ライフ」ははスティーヴの大ブレイク作といわれます。ここから聴き始めた人には彼は普通に大スターでしょうね。

 この作品は、その大ヒット作に挟まれて、一般にはぱっとしないアルバムと言われています。冒頭の「青空のヴァレリー」は全米トップ10となった大ヒット曲ですけれども、これは後に発売されたリミックス盤の方で、この作品発表時には70位どまりだったんです。

 そしてアルバム自体も全米28位と、普通の人ならば大ヒットと呼んでもおかしくないんですが、スティーヴほどの大名になれば、これは低迷ということになります。前作は3位、次作も3位ですからね。

 この作品はスティーヴのワンマンで制作されています。彼はボーカリストとしても「英国きってのブルー・アイド・ソウル・シンガー」と称された人ですし、ギタリストとしてもオルガニストとしても定評のある人です。多彩で器用な人なんですね。

 すでに長い長い歴史を経て生み出された作品ですが、この時、スティーヴはまだ34歳です。今の時代であれば、デビューしたばかりと言ってもおかしくない歳です。ところが、彼の場合は、このサウンドに長い長い前史が詰まっているわけです。

 80年代初頭という時代を反映して、エレクトロニクスを多用したポップな路線に終始しています。子役時代のスティーヴのサウンドを期待していると肩透かしをくらうかもしれませんが、円熟味を増した声はまぎれもなくスティーヴ印。深く刻印されています。

 安定感のある大御所的な作りになっていて、さすがだなと思いますが、大概は酷評されるアルバムです。金澤寿和さんのライナーでさえぼろくそです。「如何にもスケール感が乏しく、広がりや深みに欠けた箱庭的な印象の作品になってしまっている」。

 「演奏には覇気がなく、少々煮詰まっている様子が窺えたのだ」。ライナーですよ。後半で次作での「大ブレイクの伏線となっていた」と救済が試みられていますが、ライナーでここまでぼろくそ書かれるのも珍しいです。

 私はなぜかこのアルバムをリアル・タイムで買ったものですから、わりと愛着があります。今聴くとワンマン録音の限界がはっきりと感じられる捉えどころのない作品だとは思いますが、やっぱり曲はいいです。そこはさすがに天才子役。勘は抜群です。

Talking Back To The Night / Steve Winwood (1982 Island)