キンブラは、グラミー賞の最優秀レコード賞を受賞し、2012年の年間売上ナンバー1となったゴティエの「失恋サムバディ」でボーカルを披露していた女性です。そのため、「全米デビュー前に全世界一位!」という煽り文句が帯に印刷されています。

 ただ、ニュージーランド生まれの彼女は、すでに2010年にオーストラリアでデビューしていますし、「失恋サムバディ」とほぼ同時期にアルバムも発表していて、そちらの方も全米チャートでトップ20に入るヒットとなっています。

 この作品は、そんな彼女の正式な世界デビュー作になるということです。なかなか苦しい煽りで、苦肉の策であることが窺えます。そのかいあて、一応成功したと言えるのではないでしょうか。私もその文句に惹きつけられて買いましたから。

 キンブラは公式サイトによれば、「ゴティエとのライヴでも、彼女がステージに登場した途端、観客が大熱狂した」そうで、スター性に溢れた人のようです。また、「キュートなルックスと抜群のセンスからファッション・アイコン」ともなっているとのこと。

 ちょっと意外な解説のような気がしました。ジャケ写しか見ていないからかもしれませんが、オタクっぽい感じすらするサウンドへのこだわりからは若干想像しにくいです。まあ両立しないものではありませんけれども。

 この作品は、新谷洋子さんのライナーによれば、彼女が「ある夜眠りにつく寸前にふと頭に思い浮かんだ言葉」である「ザ・ゴールデン・エコーを探す旅」なのだそうです。決して荒唐無稽な言葉ではありませんから、探せばいろいろ見つかるものなんですね。

 たとえば、ナルキッソス・ゴールデン・エコーでラッパ水仙ですし、19世紀の英国の聖職者に同じ題名の詩があるそうです。こうして、キンブラはアーティストとしてインスピレーションを次々に受けていくわけですね。創作の秘密を垣間見ることのできる良い話です。

 さらに「刺激をたくさん与えてくれそうな楽器を集めたの」というわけで、楽器からもインスピレーションを膨らませて音作りがなされています。どうやら彼女のメンターはフライング・ロータスとヴァン・ダイク・パークスという不思議な組み合わせのようです。納得。
 
 多彩なゲストを迎えて出来上がったサウンドは、「プリンス~70年代のR&B~90年代のポップを柱にした」そうで、言われてみればなるほどと思わせます。音へのこだわりがプリンス的ですし、仕上がりの音は90年代っぽく、気持ちは70年代というところでしょうか。

 彼女のボーカルは変幻自在な声を重ねて録られていますが、決してシャウトするわけではなく、基本は高くて甘い声を冷ために歌うというヨーロッパ的なテイストです。南半球の人ですけれども、北欧系なイメージです。

 楽曲は落ち着いた響きが中心でとても美しいです。現代アメリカの歌姫たちとは一線を画するサウンドはとてもほっとさせるところがあります。クラブ系サウンドやネオ・クラシカルなテイストもあり、不思議な心地よさを感じさせてくれます。

The Golden Echo / Kimbra (2014 Warner Brothers)