解説の小野郁夫さんの命名によるところ、これこそ「真の爺音楽」です。ラテン音楽には爺が似合います。キューバもそうですし、ブラジルもそう。若い人の音楽でもあるはずですし、カーニバルで踊る音楽でもあるのですが、なぜか爺。

 カルトーラさんはサンバの最重要人物の一人です。ケペル木村さんのライナーに依拠してご紹介しましょう。1908年に生まれた彼は、若い頃から音楽活動を始め、20歳の時にはエスタサォン・プリメイラ・ヂ・マンゲイラを結成します。

 、このマンゲイラは、「リオのカルナヴァル史上、2番目に生まれた”エスコーラ・ヂ・サンバ”」で、今でも老舗のサンバ・チームとして人気が高いようです。時間のスケールが半端ないですね。

 カルトーラさんはマンゲイラで活躍しますが、「彼自身はなかなか表舞台に出ることもなく、残念ながらリオの音楽界では知る人ぞ知る存在であり続けた」とのことです。レコード作品としての処女作は74年ですから、すでに66歳でした。

 この作品はカルトーラさんの三作目のアルバムで、彼はこの時69歳でした。凄い話です。彼はマンゲイラからチーム内の内紛でしばらく遠ざかっていたようですが、このアルバム発表の年には復帰しています。ですから「愛するマンゲイラ」なんですね。

 そういう背景を知ると、ジャケットに写るカルトーラさんの姿の凄味も増そうというものです。マンゲイラのチーム・カラーである「緑と薔薇」もしっかりと表現されていて、カッコいいです。裏ジャケは奥さんと二人でくつろぐ姿。しびれます。

 私はラテン音楽にはとんと詳しくありませんから、あまりサウンドについて云々するとボロが出てしまいそうです。しかし、カルトーラさんの場合はサンバそのもの、サンバの教科書と言ってよさそうですから、安心してご紹介できます。

 ラテン音楽は大衆音楽の世界で、英米のロックやジャズと並ぶ大きな勢力となっています。ついでに私としてはインド音楽を挙げたいところです。このカルトーラさんのアルバムを聴いているとその豊饒な世界が伝わってきます。

 何と言ってもリズムに艶があります。この作品でカルトーラさんが歌う曲は、カーニヴァルで踊りまくる音楽というわけではありません。ことさらにリズムを強調しているわけではないのですが、何とも妖艶なリズムに心が躍ります。

 年齢を重ねれば重ねるほどにリズムにコクが出てくるのでしょうね。日本的な老人の魅力と言えば、枯淡の境地的な枯れた魅力なんですが、ラテン音楽社会はそうではないらしく、大人ではあるもののとても元気です。

 何とも魅力的な音楽ですが、ラテン音楽の深い森に分け入るには私はまだまだ修行が足りません。大きな魅惑の世界が扉の向こうにあることは分かります。このアルバムなどは十分素晴らしいと思います。ですが、隔靴掻痒。魅力を本当には分かっていないような気が..。

Verde Que Te Quero Rosa / Cartola (1977 RCA)