「この『ゴールドラッシュ』で爆発しちゃうんだよな」というわけで、「まぁ、そんなこんなで『ゴールドラッシュ』でハッキリと矢沢永吉が世の中に知れ渡ったってことですね」。矢沢さん自身の言葉は常に踊っているようでかっこいいです。

 この作品は、ミリオン・セラーとなったシングル曲「時間よ止まれ」が含まれたアルバムで、見事にオリコン・チャートを制しました。どちらも初めてのことで、矢沢さんは「爆発しちゃ」って、その名は「世の中に知れ渡った」わけです。

 「時間よ止まれ」は資生堂のCMとのタイアップでした。今でこそCMタイアップはスタンダードな手法ですけれども、この頃はまだその黎明期です。インパクトは大きかったです。私も映像とともにこの歌はよく覚えています。

 私たちにとって、矢沢と言えばまずはキャロルでした。考えてみれば、キャロルの日本の音楽シーンにおける役割はパンクだったと思うのですが、当時はそういう言葉もありませんでしたから、世間はキャロルを不良セクターに押し込めてしまいました。
 
 実際にはそうでないファンの方が圧倒的に多かったはずですが、マスコミとは怖いものです。ともあれ、革命的なバンドだったキャロルが解散して、矢沢さんがソロ活動を開始しますと、バラード主体のそのサウンドが賛否両論を巻き起こしました。

 私自身はキャロルに思い入れがあるわけではありませんが、ちょうど中学生の頃でしたから、まわりにはキャロル・ファンが多かったです。彼らの間では、永ちゃんのソロは評判が悪かったと記憶しています。戸惑いが大きかったのだろうと思います。

 大人なサウンドなので、むしろ50歳を超えた今聴くと気分としてはピッタリです。かなり渋めのサウンドです。ミュージシャンは矢沢さんを支えたノーバディの二人、相沢行夫と木原敏雄を中心に、後藤次利、坂本龍一、村上秀一など当代きっての名手が名を連ねています。

 全体に落ち着いた本格的な渋いグルーヴが光ります。中では、駒沢裕城さんのスティール・ギターがいいアクセントとなっていますし、ジェイク・H・コンセプシオンのブラスがとても味わい深いです。

 そしてもちろん矢沢さんの声。ほとんどが一発録りだというボーカル・パフォーマンスはかっこいいことこの上ありません。この人のボーカリストとしての力量は半端ないことを改めて感じました。

 しかし、不思議な味わいのロックです。ブルース臭はさほどしません。黒くない。だからと言って歌謡曲ないし演歌かというと、そこは明らかに違う。日本人にしかできないロックだと思います。日本人以外には分かりにくいかもしれません。

 今ではポピュラーなタイプの日本のロックですが、それは矢沢さんの影響力がとても強いということでしょう。こんなロックは矢沢以前にはありませんでした。彼が切り開いた世界が当たり前になったということですから、まさに私たちは矢沢後の世界に生きているということです。

Goldrush / Yazawa Eikichi (1978 CBS Sony)