うちの母親はBSなどでやっている「日本の歌」が好きでよく見ています。折り目正しいコーラスが、童謡や唱歌を始めとする日本の懐かしい歌を歌う番組です。この作品はインストゥルメンタルではありますが、さしずめ「インドの歌」かもしれません。

 インドの方々は宗教的な歌が大好きです。バジャンやキルタンと呼ばれるヒンズー教の儀式に付随する音楽の数々は、インド人の心の歌であろうと思います。古典音楽というよりも大衆音楽に近いですし。インド式スピリチュアル・ミュージックともいえます。

 ジャケットには祈りを捧げる女性が描かれています。私はてっきり彼女が歌っているものだとばかり思って入手したのですが、これは単なる美女ジャケでした。彼女はシュラッダ三部作全てのジャケットを飾っていますから、名前がシュラッダなのかもしれません。

 この作品の題名は「アートマ・シュラッダ」です。アートマはアートマン、我のことです。梵我一如はヴェーダの教えの中核をなす言葉です。シュラッダはフェイス、信ですね。女の子の名前にも使われます。

 とても神聖なタイトルであることが分かります。副題は「内なる平安を呼び起こす聖なる音楽」となっています。インドの出版大手タイムズ・グループのレコード・レーベルであるタイムズ・ミュージックから発表されていますが、このレーベルはこうしたスピリチュアルな音楽のパイオニアとして知られています。

 この作品はシュラッダ三部作の三番目で、古今の有名なスピリチュアルな楽曲をインド古来の楽器や西洋の楽器を使って演奏したものです。プロデューサーはヘマント・マタニさんという英国在住の方です。

 音楽監督はアシット・デサイさんです。この人は歌手として有名な人で、最も知られているのは、ラヴィ・シャンカール師との共演です。アシットは、シャンカール師のオーケストラで、ボーカリスト、アレンジャー、ディレクターとして大活躍していました。

 映画音楽も手掛けていたことがありますから、インドの伝統的な音楽もモダンな音楽もどちらでも行ける人であろうことが分かります。この作品ではアレンジと指揮を担当していて、見事に仕上げています。

 中心となるのは、管はフルート、弦楽器にシタール、サロード、サントゥール、鍵盤手風琴ハルモニウム、そして打楽器はパカワージと、全部で6人です。このメンバーを核に、タブラ、ドラクといったインドの太鼓、そしてギターやキーボードなどの西洋楽器がアディショナルに加わります。

 フルート以外の西洋楽器は、言われなければ分からない程度にしか活躍していません。しかし、全体に隠し味として機能しているのだろうなと思わせます。インドの心の歌ではありながらも、どこかモダンな感じがするんですよね。

 典型的なインド・チューンですが、心が洗われる美しい音楽です。慣れが必要ですが。

Atma Shraddha / Ashit Desai (2004 Times Music)