全く意表をついたタイトルでした。クイーンがジャズをやったのかと思いましたが、そうではなくて、ジャズと言う言葉本来の意味に立ち返った見事な作品でした。センスがいいなあと発表当時から思っております。

 この作品は、エンターテイナーとしてのクイーンが完成した作品ではないかと思います。51人ものオールヌードの女性が自転車にまたがるポスターや、トップレス女性が乱舞するPVのことだけを言っているのではありません。

 初期のクイーンを支えたプロデューサーのロイ・トーマス・ベイカーさんを再び迎えたサウンドそのものが超のつくエンターテインメントです。その名もずばり「レット・ミー・エンターテイン・ユー」なんていう曲まで収められています。

 この頃のクイーンは巨大な王冠のセットやら、超豪華なライティングやらで、エンターテインメントの真髄を極めるコンサートを行っていました。なかなかこういう姿勢はシリアスな音楽を愛でるメディアやロック・ファンには評判が良くはありませんでした。

 しかし、時代は下って85年に行われたライブエイドでの伝説のステージはクイーンの、そしてエンターテインメントの底力を見せつけました。自分たちのファンばかりでないいわばアウェイの環境で、スタジアム全体を一瞬にして虜にしたパフォーマンスは凄かったです。

 客に手拍子を要求するアーティストが多かったですが、クイーンの場合は頼まなくても全員が自然に手拍子していました。翌週、イギリスではクイーンの旧譜がチャートインしたほどです。スタジアムを熱狂させる力は侮れません。

 このアルバムは、いきなり♪イーブラヒーーム♪と中東風に始まります。ホメイニ師、テニスのアンドレ・アガシと並んで、世界三大有名ペルシャ系としてのフレディーの面目躍如です。もうこの曲から圧倒的なエンターテインメントが始まります。

 サウンドは前作をさらに突き詰めていて、自己満足的なところは微塵もなく、シンプルに分かりやすく聴く者を楽しませてくれます。聴きどころも多くて、仔細に聴けばさまざまな工夫が凝らされています。しかし、そんなことにかまけずに、ストレートに楽しめます。

 相変わらず四人全員が曲を提供していますし、ロックからバラードまでバラエティーに富んだ遊園地的な構成もいつもと変わりません。しかし、今回はとにかく楽しい。その楽しさが陰影には富んでいるものの、強度が一様です。

 素敵なライナーを書かれている河井美穂さんの言葉を借りれば、「一言で言えば、『楽しい』の懐が深いのだ」ということにもなります。針が振り切れたような楽しさなのですが、そこに実に深いものを感じます。

 シンプルながら眩暈のしそうなジャケットに包まれたこの作品は、クイーンの70年代の一つの到達点でもあると思います。「ドント・ストップ・ミー・ナウ」と歌う彼らは、この当時、確かに絶頂を極めていました。

Jazz / Queen (1978 EMI)