クイーンの再結成コンサートを横浜アリーナで見た時のことです。客席を映し出したスクリーンでは、お母さんに連れられた小学生らしい女の子が「’39」をブライアンに合わせて完璧に歌っていました。何だか胸が熱くなりました。クイーンは日本ではそういうバンドなんです。

 この作品はクイーンの最高傑作であると一般に言われていますし、私もそう思います。前作発表後、散々だった全米ツアーに出て、その帰路に立ち寄った日本ツアーで大歓迎を受けたことが、彼らにスーパースターであることの自信を植えつけ、こんな傑作をもたらしました。

 執拗なまでにオーバーダブを繰り返したギターやコーラスはとても分厚くて実に聴き応えがあります。それもそのはずで、このアルバムはそれまでのイギリス・レコード史上最も製作費の高いレコードとなっていました。

 この作品はしばしばビートルズの「サージェント・ペパーズ」になぞらえられます。アルバムの完成度の高さを指しているのでしょうが、このアルバムはコンセプト・アルバムというわけではありません。「オペラ」は意味深ですが、タイトルはマルクス兄弟の映画ですし。

 むしろ、一曲一曲に様々なアイデアが詰め込まれていて、それぞれが一つのドラマを構成しています。ただし、演劇然としているというわけではなくて、濃密な時間がそれぞれに詰め込まれているんです。

 その典型はもちろん「ボヘミアン・ラプソディー」です。三部構成になっているこの曲では、流麗なメロディーの第一部、オペラ風の第二部、ハードロックな第三部、そしてエピローグ。6分近い曲ですが、ロックの歴史に残る大名曲です。よくもこんな曲が出来たものです。

 同様な構成は「預言者の唄」にも見られます。この曲もよく聴きました。後半部にフレディーのボーカルが切り込んでくるところなど今でも鳥肌ものです。他の曲は比較的短い曲ばかりなのですが、とにかくバラエティーに富んでいます。

 私はこのアルバムは全曲隅から隅まで覚えています。本当によく聴きました。同じような曲が一つもありませんから全曲覚えることなどとても簡単なことです。「サージェント・ペパーズ」なら「ウェン・アイム・64」にあたる「グッド・カンパニー」ですら覚えています。

 このアルバムからはジョン・ディーコンさんの「マイ・ベスト・フレンド」もヒットしました。エレピの音が泣かせる名曲です。ロジャーやブライアンが歌う歌もあり、フレディー以外のメンバーも通常のバンド以上に大活躍しています。

 しかし、クイーンはフレディーのワンマン・バンドですよね。フレディーの体臭が全体に濃厚です。このアルバムに一本太い芯が入っているのは、フレディーの世界観あればこそでしょう。「ボヘミアン・ラプソディー」に見られる見事に虚構然とした素晴らしい異世界です。

 全世界で大ヒットし、ここ日本でもさらに圧倒的な人気を得ることとなった作品です。当時の技術の粋をつくした作品は圧倒的な完成度を誇っています。ポスト・ビートルズ世代としては初めて出会った新しいスーパースターの誕生でした。

A Night At the Opera / Queen (1975 EMI)