煙草の吸殻をこんなに綺麗に撮った写真はそう多くはありません。どういう意図なのかが今一つ分かりませんが、甘いアルバムなのに、芸術的とは言え、灰皿の中身を表紙にするというのは意表をついています。

 この作品は、ジャズ・ギタリストの第一人者ウェス・モンゴメリーさんの代表作です。プロデューサーのクリード・テイラーさん、編曲のドン・セベスキーさんの三人組によって制作され、アメリカではアルバム・チャートのトップ20に入る大ヒットをしています。

 ビートルズから、「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」と「エリナー・リグビー」の2曲、さらにはパーシー・スレッジの大ヒット曲「男が女を愛する時」を始めとするジャズのスタンダードではない楽曲ばかり選ばれています。

 オリジナルは1曲のみ、ジャズ・スタンダードと言えるのは「ウィロウ・ウィープ・フォー・ミー」のみというジャズ・ギタリストのアルバムとは思えない選曲です。そして、編曲の妙はホーン&ストリングスにありますから、なおさらです。

 そして、ジャズ的に即興でメロディーを解体、再構築しているというわけでもなく、正面からメロディーを忠実にウェスのギターが歌い上げるわけですから、ジャズ・ファンの間では賛否両論が巻き起こったようです。

 イージー・リスニングに堕したとの評価を現在でもちらほらと見受けますから、当時は結構激しかったかもしれません。もちろん大衆的にはヒットしているわけで、コアなジャズ・ファンの間での話です。

 私も若い頃であれば同じような感想を抱いたかもしれませんが、今やイージー・リスニングで何が悪い、という姿勢に転化していますから、ウェスの音楽を正面から肯定したいと思います。この歌心は美しいの一言です。

 オクターブ奏法というのだそうですが、とにかく音が綺麗です。ハービー・ハンコックさんのピアノ、ロン・カーターさんのベース、グラディ・テイトさんのドラム、それにウェスのギターを加えて四人組が基本ですが、そのアンサンブルも実に美しい。

 そこにストリングスやホーン、パーカッションが加わるわけですけれども、これが意外に邪魔し合わない。見事に相乗効果を発揮して、普通のジャズでは味わえないサウンドが展開されていきます。

 ところで、ビートルズの「サージェント・ペパーズ」がアメリカで発売になったのは、1967年6月2日で、ウェスがその中の一曲「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」を録音したのは同月です。アルバムには、録音日は6日、7日、8日、26日とありますから、一番遠くてもひと月以内ですね。

 このスピード感で制作したかと思うとまた格別です。ウェスはギターで歌いたくてうずうずしている風情ですね。その歌心がとにかく素晴らしいんです。翌年には亡くなってしまったのが残念でなりません。

A Day in the Life / Wes Montgomery (1967 CTI)