ダウニーは日本のポストロック・バンドです。2013年に発表されたこの作品は彼らの9年ぶりのアルバムで、第五作品集と呼ばれています。「呼ばれています」、というのも彼らのアルバムはすべて無題なんですね。

 であれば各作品を愛称で呼べばいいんですが、そんな扱いを気軽に出来ないところが彼らには漂っています。ストイックなんですね。それに映像担当のメンバーがいて、当初から映像と音が一体化したパフォーマンスをしてきましたから、余計ハードルが高い。

 ダウニーはボーカルとギターを担当する青木ロビンさんを中心としたバンドで、エレクトロニクスと生演奏を一体化させた独特のサウンドを特徴としています。最初は、ダウニーなんていう名前やジャケットの雰囲気からおどろおどろしいバンドのような印象を受けました。

 しかし、この作品の印象を一言で言うと、爽やか、です。ポスト・ロックと一般に称されるクラブ・ミュージック通過後のストイックなロック・サウンドと、あの世から爽やかに吹いてくるようなボーカルの組み合わせがとても爽やかな空気を感じさせます。

 思わず三回も爽やかと書いてしまいましたが、本当に爽やかなんです。勿体ぶったところがありませんし、「歌は感情や抑揚を出さない」という決まりが効いているのかもしれません。さらに「最終的にメロディックな世界観」に落ち着いたことも大きいのでしょう。

 そして、「今回のアルバムは暖かいんですよ。たぶんメンバーみんなが優しくなったから」ということで、妙な気負いが入っていないんでしょう。ストレートな変拍子が気持ち良いですし、アンサンブルの妙が心地好い緊張を連れてきます。

 アルバムには和紙のような紙のブックレットが添付されていて、歌詞が縦書きで印刷されています。まるで詩集です。ダウニーの歌は歌詞を聴きとるのが難しいですから、こうして詩集となった歌詞を鑑賞するということになります。

 一見して分かることは雨と月が大きな役割を果たしていることです。インストを除く10曲中、7曲に雨、4曲に月が出てきます。大正から昭和初期の佇まいを持つ詩はなかなか素敵です。琴酒と書いてアルコールとルビを振るところなど、小栗虫太郎の「黒死館殺人事件」のようで、私は結構好きです。

 こうして、サウンドとボーカルと詩と3つのパートから成っていて、それぞれが素敵で、さらにそれを組み合わせて鑑賞して楽しいというなかなか面白い作品です。

 「己の敵は己というように、今回は自分たちをギャフンと言わせたかった」と青木さんは語ります。このストイックさが爽やかな風を運んでくるんでしょうね。余計な邪念が入っていないんです。

 おどろおどろしいヴィジュアル系のバンドではなく、とても爽やかなポストロック・バンドですから、プログレ好きにもクラブ・キッズにも受け入れられそうです。次の作品にも期待するところ大です。(引用はliquidroom HP、featureインタビューより)

無題 / downy (2013 Felicity)