いきなり失礼なことを申し上げるかもしれませんが、山中千尋さんは女王様キャラなのではないかと推察いたします。何と言っても思い切りがいいです。それに「バークリー音楽院の同級生中心のメンバーで」制作なんていかにも女王様ですよね。(週刊文春web神舘和典氏)

 この作品は、「聴きたいジャズが、ここにある。」というキャッチフレーズと共に世に出されました。どういう意味かというと「ジャズの王道に立ち返」ったアルバムだということです。創立75周年を迎えたブルーノートからの発売です。

 彼女自身、「ジャズと正面から向き合いたくなった」(CDジャーナル14年8月)ことから生まれたアルバムです。実は私は彼女の音楽を聴くのはこれが初めてなので、他の作品と比べようがありませんが、どうやらいつもとは随分違うようです。

 今回の作品は、山中さんのピアノに、ドラムとベースのリズム・セクション、さらにトランペット、サックス、ギターを加えたセクステット編成による演奏で、50年代のモダン・ジャズの雰囲気が濃厚です。

 ブルーノートらしさを意識して、「アナログを意識して、精度よりも温かみを大切に録音してみたんですよ」(文春)ということで、そこまで気を配ったレトロ作品ですが、これは「当時のアート・ブレイキーのグループ・アンサンブルが好きだからなんです」(CDJ)ということでした。

 ただ単にレトロというわけではなくて、いろいろな新しい仕掛けが組み込まれていて、そこを伝統的なやり方に固執する参加ミュージシャンと丁々発止やりながら作り上げたようです。確かにフォーマットはモダン・ジャズですけれども古い感じはしませんからね。

 今回の作品制作は、とにかく楽しかった様子です。「今回はあえて自分たちのスタイルではなく古き良きジャズに徹しました。楽しかったあー」(文春)とか、「ジャズの所作のような者が身に染みついているから、珍しく楽しい作業になったんだと思う」(CDJ)とか。

 この作品を聴いていると、とりわけそこのところがひしひしと伝わってきます。聴いているこちらもとても楽しい。女王様が楽しまれている様子が伝わってくると、国民としても大そう喜ばしいということです。

 カバー曲が三曲あって、ハービー・ハンコックにバド・パウエルは想定内ですけれども、もう一曲は「フニクリ・フニクラ」です。細野晴臣さんもカバーしていましたが、ミュージシャン魂をくすぐるんですかね。思わず口元に笑みを浮かべてしまいます。

 山中さんの手になるオリジナル曲もタイトルがなかなか面白いです。「ゴー・ゴー・ゴー」なんてのもありますし、極めつけは「ユー・アー・ア・フール・アーント・ユー」でしょう。「お前はあほやな。違うか」っていうところでしょうか。

 とにかく、この作品はとても楽しいです。仔細に聴いていくといろいろな発見もあります。高度なアンサンブルが聞こえてくる上に、どの楽器を追っても楽しい。女王様の潔い姿に勇気と元気をもらえる作品です。

Something Blue / Yamanaka Chihiro (2014 Blue Note)