「オン・ステージ」シリーズの第二弾は、まさかのライブをまるごと収録した作品です。ここまでのところでは、ライブ・アルバムも何作か発表されていましたが、一つのコンサートを丸ごと収録したものはありませんでした。

 強いて言えば、「ビート・ザ・ブート」シリーズがそうでした。ただ、そちらは元が海賊盤ですからね。コンサートを見ることが出来ない私たちとしては、きちんとした録音でこういうライブ盤が出ることを切望していましたから、恰好の贈り物となりました。

 ザッパ先生は完璧主義者ですし、編集の魔術師ですから、一つのショーをそのまま作品にすることは憚られたのではないかと思います。それを思うとこのコンサートは相当なお気に入りだったんでしょう。

 このライブは1974年9月22日にヘルシンキで行われました。バンドは74年バンドとでも言いましょうか、「ロキシー&エルズウェア」のメンバーをスリムダウンしたバンドです。前年からツアーに明け暮れていた面子ですから、演奏は熟熟に熟していました。

 メンバーは、FZに加えて、マザーズ時代からのナポレオン・マーフィー・ブロック、あのジョージ・デューク、3人いるなら3人ともバンドに欲しいとザッパに言わせたルース・アンダーウッド、ベースはトム・ファウラー、ドラムは チェスター・トンプソンです。

 ギターはザッパ先生お一人、キーボードもジョージ一人、ホーンもナポレオン一人ですから、ザッパ先生のバンドとしてはとてもスリムな構成です。その6人で、ファンの間でも特に人気の高い伝説のコンサートが成立したわけです。

 先生も、ナポレオンが肺炎を患っていたけれども、コンサートそのものは大変楽しい一夜となったと仰っています。「ただでさえ難しい曲を恐ろしく速いテンポで演奏している」事実にご満足だった様子です。

 全部で約2時間強のコンサートですが、全く飽きません。むしろ、このままもう少し聴いていたい、終わるのがもったいない、そんな風に思わせてくれます。ナポレオンのボーカルは肺炎だということを思わせない活躍ぶりで、しっかり漫談もこなしています。

 「ルーム・サーヴィス」という曲がありますが、これはルースがホテルでサーヴィスを頼んだら変な男がやってきた話を即興で曲にしたものです。こうした掛け合いが彼らのショーの特徴です。決まりきったセットだけではなく、その夜限りのお楽しみが満載。

 そんな掛け合いもバックの演奏が異様にしっかりしていればこそです。しなやかでかつ骨太のリズム・セクションにカラフルなルースのパーカッションが踊っていれば、ナポレオンがどんなにふざけようとぴったりとはまります。

 この時期のザッパ・バンドはファンキーな風味をまぶした超絶技巧バンドでした。ちょっとテンポが速すぎる部分があるのですが、これはこれで最高のライブでありましょう。「オン・ステージ」シリーズの異色作はファンへの素晴らしい贈り物なんです。

You Can't Do That On Stage Anymore Vol.2 The Helsinki Concert / Frank Zappa (1988 Ryko)