子どもの頃、007には胸を躍らせたものです。大人になって初期の作品を見直してみると、ずいぶん大雑把な作りだったりもするわけですが、その緩さも含めて私はこのシリーズが大好きです。

 好きが高じて、スパイ物を読みふけっていましたし、挙句の果ては、就職の面接試験で「スパイになりたかった」と答えてしまったほどです。幸い、その答えを面白がってくれたので、無事に試験はパスいたしました。

 さて、007シリーズの中でも特に印象深いのが初めて映画館で見たこの作品、「死ぬのは奴らだ」です。ショーン・コネリーさんよりも、はるかにボンドらしいロジャー・ムーアさんの007デビュー作です。憧れましたね。本当にカッコよかった。

 この作品では、主題歌をポール・マッカートニーとウィングスが歌っています。それまでシャーリー・バッシーさんとかスタンダード系の歌手ばかりが起用されていて、ロック系からは初めてでした。まあ、超大物ですけどね。

 さすがにポールは手堅くまとめています。スパイ映画っぽいフレイバーをぷんぷんさせながらも、見事にポップな楽曲で、ポールのコンサートでも定番になっていました。大天才はこういう遊び心に満ちた試みを軽々とこなすんですねえ。

 そして、ポールがジョージ・マーチンさんとのレコーディングを希望したことが縁となって、映画のスコアもすべてジョージが担当することになりました。007と言えば、ジョン・バリーさんが長らく音楽を担当していましたが、ちょうど前作でプロデューサーと喧嘩別れしたことから、渡りに船だったようです。

 ジョージ・マーチンさんは、この期待に見事に応えて、最初の作品から007シリーズの音楽を担当していたかのような馴染みっぷりです。考えてみれば、イギリス人にとって007は日本人にとっての寅さんのようなものです。型がしっかりしていますから、ジョージほどの人ならば軽やかにこなせるんでしょうね。

 舞台はカリブ海に浮かぶ島ですから、カリブの匂いも感じられますし、スパイ・アクションとゴージャスなラブ・シーンは見事に定番サウンドで決めています。そして、主題歌は劇中では女性ソウル・シンガーが歌っていて、それはソウル・アレンジが施されています。

 主題歌以外の曲はほぼすべてジョージ・マーチンさんによるオリジナルで、録音はジョージのオーケストラを使って行われています。最後にお馴染みの名曲「ジェームズ・ボンドのテーマ」が流れますが、さすがにこれはモンティー・ノーマン作曲のオリジナルが使われています。

 この「ジェームズ・ボンドのテーマ」が通奏低音になっていて、これが型となっているのでしょう。あちらこちらに顔を出していますから、ある意味、全体がこのテーマの変奏曲のようでもあります。

 どの曲にも007マークが刻印されていて、定番の凄味を感じます。

Live and Let Die / George Martin (1974 United Artists)