このジャケットで「天国と地獄」というタイトルが付くと、私の世代では文明堂のTVコマーシャルを思い浮かべずにはおられません。あちらは可愛いぬいぐるみでしたが、確かこういう手だけのバージョンもあったような気がするのですがどうでしょうか。

 ヴァンゲリスさんの名前を一躍知らしめることになった作品です。RCAから発売されましたが、再発は何とウィンダム・ヒル・レコードからです。ウィンダム・ヒルは80年代のニュー・エイジ・ブームを支えたレーベルですから、この作品も後にそういう捉えられ方をしたようです。

 この作品の発表当時は、もちろんニュー・エイジなどという呼称はありませんでした。初めてこの言葉を聞いた時には、私はスピリチュアルなイージー・リスニングだと解釈していました。その解釈をとると、難解なプログレ・アーティストだと言われていたヴァンゲリスさんは、ニューエイジとは遠くにいる気もします。しかし、今聴くと確かにサウンドはニュー・エイジですね。

 「天国と地獄」は、それまでのヴァンゲリス作品とは異なり、かなりクラシカルな要素の強い作品だと言われています。この頃、彼は、リック・ウェイクマンの後釜としてイエスのキーボード奏者候補に名前が挙がっていました。

 結局は加入はしませんでしたが、ヴァンゲリスの名前を世間に轟かせることになったことは確かです。そこにこういうクラシカルな分かりやすい作品を出したものですから、英国ではチャート入りするヒットを記録しました。

 この作品は、A面が「天国と地獄」パート1、B面がパート2となっていて、全1曲の作品だと言えます。それが、CDだとパート1から、イエスのジョン・アンダーソンをヴォーカルに迎えた曲「ソー・ロング・アゴー・ソー・クリアー」だけ括りだしています。

 しかし、LPの場合は、パート1、2ともに楽章ごとにタイトルがついています。ちなみにパート1は、「バッカナール」「シンフォニー・トゥ・ザ・パワーズ・B」、「ムーヴメント3」と件のヴォーカル曲です。パート2は地獄を表しているようですが、「インテスティナル・バット」、「ニードルズ・アンド・ボーンズ」、「12オクロック」、「エアリーズ」、「ア・ウェイ」に分かれています。

 ちなみにCDには一切記述がありません。鑑賞の手引きとするには、各楽章のタイトルがあった方が分かりやすくてよいと思いますが、作者の指示でしょうから、しょうがありませんね。ロマン派的な標題音楽ですから、タイトルは重要です。

 随分後のことですが、この「ムーヴメント3」がカール・セーガンのTVシリーズ「コスモス」に使用されたことが、ヴァンゲリスさんの知名度を大きく上げることになった、という逸話がこの作品には残されています。徹底的に宇宙を感じさせる音ですから、これも運命でしょう。

 ジョンの歌以外は、コーラスはあるものの基本的にはインスト・アルバムです。シンセが大活躍していますが、意外にピアノやドラムの音が活躍するので、アナログな印象を受けます。とてもロマンチックです。一言で言えば、とても分かりやすいクラシック音楽的な電子音楽ですが、繰り返します。当時は結構難解なプログレ作品として捉えられていました。電子音楽すなわち実験という時代でしたから。

Heaven and Hell / Vangelis (1975 RCA)