日本では夏祭りの見世物小屋に相当するのではないかと思いますが、イギリスではよく移動式の遊園地に遭遇しました。お祭りでそうした遊園地が出てきたりする場所をフェアグラウンドと言います。それを否定したアンフェアグラウンド。皮肉っぽいですね。

 ケヴィン・エアーズの実に15年ぶりのアルバムがこちらです。すでに彼は故人となってしまっていますから、結局、これが遺作ということになってしまいました。残念なことですけれども、こればかりはしょうがありません。

 ケヴィンはこの頃南フランスに住んでいました。そこで知り合ったアメリカ人アーティストのティム・シェパードさんが、ケヴィンのデモ音源を聴いて、強くケヴィンにアルバム制作を勧めました。ジャケットも描いているティムの尽力で出来上がったのがこの作品です。

 さながらケヴィンのトリビュート・アルバムのような作品になっています。ニューヨークやロンドン、さらにはグラスゴーなどあちらこちらで録音されていて、土地土地でケヴィンを敬愛する若手ミュージシャンが参加しているんです。

 もちろん、ロキシーのフィル・マンザネラや、ソフト・マシーンのヒュー・ホッパーやロバート・ワイアット、さらにはセカンド・アルバム以来の共演となるブリジット・セント・ジョンなどの旧友も参加しています。

 ケヴィンへの愛に満ちたアルバムに仕上がっているんです。そして、歌はケヴィンの人生を振り返ったようなことになっていて、かなりパーソナルなタッチになっています。まわりのサポートがあってこその正直な歌ということでしょう。

 とりわけサウンド作りに貢献しているのは、ニューヨークのインディ・バンド、レディバグ・トランジスターのゲイリー・オルソンです。彼は以前にコンピ盤でケヴィンの「メイ・アイ」のフランス語版、「ピュイ・ジュ」をカバーしたことがありました。

 ゲイリーは、ケヴィン本人とベテラン・プロデューサーのピーター・ヘンダースンとともに共同プロデューサーに名を連ねています。ゲイリーの他にもティーネイジ・ファンクラブのノーマン・ブレイクなどが係わっていて、若い感性でケヴィンの良さを引き出しています。

 結果は素晴らしいものでした。初期のハーヴェスト時代から、アイランドを経て再びハーヴェストに戻り、さらにはヴァージンで復活した彼のキャリアを凝縮して、落ち着かせた感じと言えばよいでしょうか。

 低音ボーカルの魅力にはさらに磨きがかかり、凝ってはいるけれども、とてもシンプルな佳曲が並んでいます。無人の遊園地が描かれているジャケットさながらに、どこか空虚なメランコリーも漂い、美しさに胸が締め付けられるようです。

 この作品は、各方面で絶賛され、当然のように日本盤も発売されました。30分強という短い作品ですけれども、ケヴィンの復活を寿ぎ、今後に期待が膨らんでいただけにこれが最後の作品になったのは返す返すも惜しいことでした。

The Unfairground / Kevin Ayers (2007 Lo-Max)