ペギー・キングさんは生年に諸説ありますが、概ね1930年頃に生まれた米国人女性歌手です。ただし、テレビのドラマやバラエティーでも活躍していたといいますから、日本のいわゆるタレントに近い芸能人と言ってよいかと思います。

 活躍時期は1950年代が中心ですから、私も生まれていませんでしたし、このCDを入手するまで、彼女のことは全く知りませんでした。ただ、紙ジャケで発売になったことと、シリーズで一枚選ぶ段になって、「思い出のかけら」が入っていることが決め手となって購入しました。

 高井信成さんのライナーノーツがとても悩ましいです。ご本人も「この文章を読んでフクザツな心境になられた方がいらっしゃるかもしれない」と書かれていますが、私は彼の文脈を離れてとてもフクザツな気になりました。

 というのも、高井さんが言うには、「レコード・ジャケットの女性に恋をしてしまった」んだそうです。確かに、いろいろと検索してみると、美しいジャケットのレコードが見つかります。恋をするのも分からないではありません。

 しかし、このジャケットの作品を買った人にそんなことを言いますかねえ。紙ジャケ・コレクターの私としては、こちらじゃなくて、そっちが欲しかった、と後悔いたしました。ただ、他の作品は紙ジャケ復刻されていませんね。

 ペギーさんが活躍した50年代はアメリカが最も輝いていた時代です。ソ連という敵はいるものの、西側世界では圧倒的な実力を誇っていました。日本からすれば、戦争に勝った国ですし、それはもう羨望の的であったのではないかと推察します。

 このペギーさんの清く正しく美しいボーカルに耳を傾けると、手の届かない世界を窓の外から眺めているような気になります。外人コンプレックスでしょうかねえ。聴いているだけで、劣等感を感じそうです。

 彼女は、1955年、56年にビルボード誌とダウン・ビート誌の両方で、ベスト・ニュー・シンガーを獲得しています。テレビにも引っ張りだこでしたし、いろんな人気楽団に参加していますし、非の打ち所のない芸能生活だと思います。

 際立った個性があるわけではありませんが、とても素直で、かつ適度に艶っぽい歌唱はなかなか魅力的です。収録されているのは、スタンダード曲ばかりで、これもまた大アメリカですねえ。憧れたアメリカ世界です。

 この作品は、1954年に放送されたラジオ録音をまとめたものです。ラジオ録音なのに、とても音がいいです。AMでしょうけれども、この音質ならばCDにしても全然違和感はありません。声質もきれいに出ています。

 なお、この作品は10インチLPレコードです。ほとんど見かけなくなるフォーマットですけれども、50年代にはまだまだ数多く見られたようです。そんなところもキッチュな感じがしてとても素敵ですね。紙ジャケは普通サイズですけれども。

Peggy / Peggy King (1954 Candlelite)