残念ながら日にちは忘れてしまいましたが、1992年4月にロンドンのショウ・シアターで行われたケヴィンのライブを見ました。オリー・ハルソールさんが亡くなる一か月前、最後のライブになってしまいました。

 ロンドンだと大たいライブ会場にはパブのような場所があります。会場に到着すると、そのパブでケヴィンにとても良く似た人がビールを飲んでいました。ケヴィンのコスプレさんかと思っていたのですが、ステージに登場したのはその人でした。サインもらっておけばよかった。

 会場の入りは半分くらいで、満員というよりもガラガラという状態でしたが、オリーとふざけ合いながらの演奏はリラックスした雰囲気が終始漂っていて、私は大いに満足しました。他の面子はスペインからの人だったと思います。

 このライブは、この作品が発表されてから行われていますから、普通はある程度プロモーションの意味もあったんだと思います。まわりもまるでそんなことには頓着していない様子で、そんな雰囲気は微塵もありませんでしたけれども。

 前作から4年も経って発表されたこの作品は、ライブとは違って、イギリスのミュージシャンばかりがバックを務めています。オリーはもちろんのこと、旧友マイク・オールドフィールドやアンソニー・ムーア、英国フォークの重鎮ペンタングルのダニー・トンプソンなどです。

 さらに少し前にアコースティックな音楽で英国を沸かせたフェアグラウンド・アトラクションのマーク・ネヴィルさんの参加が注目されます。というのも、この作品はアコースティックな響きが全体を覆っているからです。

 ケヴィンがフェアグラウンド・アトラクションに共鳴したことは間違いないようです。フェアグラウンドのリズム・セクションも呼んで一緒に演奏しています。いろいろと実験をしてきた人ですけれども、行き着く先はアンプラグドなんでしょうかね。

 しかしながら、イギリスでは、ジャケットには曲名しか書いてありませんし、内袋もありませんから、参加ミュージシャンの名前もよく分からなかったようです。この時期のケヴィンはまたひどい扱いを受けたわけですね。

 とはいえ、アルバムは落ち着いた曲調で、これまたとても充実したものでした。前作以降、またまた公的な場からは姿を消していたケヴィンですが、これだけの作品が誕生するのですから、元気に暮らしていたということが分かります。

 やや落ち着きすぎのきらいもあるところで、ケヴィン特有のごつごつしたところが少し欠けている気がします。とてもスムースでまろやかなサウンドなので、文句の付けどころがないはずなんですけれども、前作の方がよかったなと思ったものでした。

 改めて聴いてみると、ごつごつしたところは、英国のサウンドらしいひんやりした感触に隠されているようにも思いました。後味に苦味が残ります。加えて、その年のうちに亡くなってしまうオリーのマンドリンのようなギター・プレイを聴いていると胸がつまります。

Still Life With Guitar / Kevin Ayers (1992 FNAC)