ザッパ先生の20年間を集大成する未発表ライブ・アルバムです。第一集とされている通り、全部でCD2枚組が6セット、13時間以上に上ります。ザッパさんが録りためていた音源は他にも数多くありますから、これでもほんの触りということです。凄いですね。

 日本盤が発売された時には、「ユーキャント・ど~だ・ザット・この凄さ」というお題がつけられていました。ここで提供されるのは、腕達者ばかりが入念なリハーサルを経て繰り広げられた名人芸の数々で、オーバーダブは一切なし。どや顔にもなろうというものです。

 全部で6組ありますが、いずれもそこはかとなくテーマがあるようです。しかし、それではこの第一集のテーマは何かと言いますと、これがよく分からない。恐らく第一集ということがテーマでしょう。別にサンプラーも出ているのですが、ここにもその匂いがします。

 冒頭は、いきなり「ザ・フロリダ・エアポート・テープ」と題して、メンバーの会話を隠し録りした音源から始まります。全12枚の初っ端に相応しいイントロですね。そんなところにザッパ先生の第一集にかける意気込みを感じるわけです。

 ザッパさんは、本シリーズの楽曲選定の8つの基準を提示していますが、このうち「その演奏に何らかの『民俗学的』重要性があるか」という点に着目したいと思います。これだけ見ると意味が分かりずらいですが、例をあげればこれほど分かりやすいものはありません。

 2曲目と3曲目は1971年12月10日の公演からの楽曲です。この公演では、終盤に差し掛かった時に、観客の一人がステージに上がって来てザッパさんをステージから突き落として大けがをさせました。

 「ザ・マミー・アンセム」は82年のパレルモでのショーからで、この日は暴動が起こりました。その他にもメンバーの大半が体調を崩していた日のライブ、蚊の大群に襲われて往生したライブ、初めてデジタル録音したライブなどなど。民俗学的に重要ですね。

 膨大な録音音源から選曲しようとすると、さすがのザッパ先生でもこういう引っ掛かりがないと難しいということではないでしょうか。この日のこの曲のこの演奏は素晴らしかった、という具合に覚えている人ですけれども、限界はあるでしょう。

 第一集に収録されているのは、古くは1969年のマザーズ時代から、84年バンドまでとキャリアを俯瞰する内容になっています。オリジナル・マザーズが最高と疑わないファンにも新しいものをちゃんと聴いてほしいとの願いも込められています。

 注目はリトル・フィートのローウェル・ジョージさんが4曲でクレジットされていることでしょうか。ボーカルも披露していますし、こういう集大成での嬉しいサプライズですね。ローウェルはメンバーでしたから当然なんですが、時期が短かったですからね。

 他にも10人マザーズから、84年バンドまで、いろんなミュージシャンを聴き比べることが出来るところが楽しいです。演奏のクウォリティーはとても高いですから、ザッパ入門にも最適でしょう。

You Can't Do That On Stage Anymore Vol.1 / Frank Zappa (1988 Ryko)