一世を風靡した「エマニエル夫人」です。残念ながら私は映画を見ていません。1975年度の配給収入がトップ3に入り、日本ヘラルド映画の社員に100万円のボーナスをもたらした人気作品ですが、当時中学生の私にはポルノ映画はハードルが高かったんです。

 ポルノ映画に革命を起こしたとされる作品で、女性客を大量に動員することに成功しました。しかし、ポルノはポルノ。見ることができない中学生の間では、エマニエルという名前が猥褻を表す記号のようなことになっていました。今でもエロチックに響きます。

 これは同作品のサントラですけれども、主題歌はかなりヒットしたと思います。フランスの音楽にとんと縁がなく、フランス語の歌すなわちシャンソンと思っている多くの人にとっては、シャンソンと聞けば、この曲が頭に浮かぶのではないでしょうか。

 このサントラは、ピエール・バシュレとエルヴェ・ロイという二人のフランス人ミュージシャンの手になります。前者はシンガー・ソングライターで、主題歌の歌声はピエールさんのものです。ロイさんの方は、作曲家、アレンジャーとして、シャルル・アズナブールやブリジット・バルドーなどのビッグ・ネームとも活動していた人です。

 主題歌の変奏が中心を占めていまして、それ以外の部分はいかにもバックグラウンド・スコア然としています。シンセサイザーの使い方がプログレ風なところが時代を感じさせます。と思っていたら、この作品はキング・クリムゾンの「太陽と戦慄」から音楽を無断借用しているとして、フリップ御大に指摘され、法廷外で和解が成立したそうです。

 恐らくは、このサントラの一曲「強姦」と「太陽と戦慄パート2」との類似が指摘を受けたのだと思います。まあ確かにそっくりです。テーマでもないわけですから、映画がこんなにヒットしなければ恐らく誰も気づかなかったでしょうに。

 大たいこのサントラはやっつけ仕事な感じがありありです。この映画は大ヒットしたため、続編として、「続エマニエル夫人」「さよならエマニエル夫人」が作られていますが、前者はフランシス・レイ、後者はセルジュ・ゲーンズブールが音楽を担当しているんですよ。

 急に気合が入りました。しかし、そこまでヒットするとは思わなかったこの作品では、まだ若手のミュージシャンを起用して、低予算であげたんでしょうね。二人の代表作に君臨する作品にはなっていますが、演奏も含めて全体に雑な作りです。

 しかし、そんなところにも音楽の神は降臨するのですね。主題歌はやはり時代を画した映画と五分にわたりあっていて、素晴らしいものです。囁くようなエロ親父のボーカルはフランス男のイメージを決定づけています。

 この時、ピエールはまだ30歳です。もっと中年の男を想像していましたが、まだまだ若い。彼は後に「O嬢の物語」などを手掛けることになりますから、ポルノとは相性がよいことを世界が認識したということでしょう。

 ネットにポルノが氾濫するはるか以前の牧歌的な時代を象徴するエロス大作でした。

Emmanuelle / Pierre Bachelet, Herve Roy (1974 Warner Brothers)



問題の個所

元歌


サントラ