ロッキー・バルボアは確かにスターでした。そして、シルベスター・スタローンを一躍有名にした「ロッキー」は掛け値なしに面白かったです。私の世代であれば、恐らく一度は「エイドリアーン!」と叫んだことがあるのではないでしょうか。

 ボクシング・ファンの私としては、こんな試合はないわあ、と思ってしまうのですけれども、まあそんなことは脇において楽しまないといけないのでしょう。息詰まるリアル・ファイトではここまで盛り上がらないでしょうからね。

 そして、音楽もこれまた誰もが知っています。全米1位に輝いた「ロッキーのテーマ」はいまだに現役バリバリで、テレビを見ているとよく流れてきます。そして、もう一曲「ロード・ワーク」というか「最終ラウンド」も現役です。

 サウンドトラックはビル・コンティさんがプロデュースしています。作曲も大半が彼の手になります。1曲だけ、スタローンさんのお兄さんが作曲しているというイタリア系らしい家族主義が見られます。お父さんもチョイ役で出演しているそうです。

 ライナーによれば、スタローンさんは、最初は音楽も自分でやろうかと思ったようですが、紹介されたビルの音楽を聴いた時に感動して、「どうやってこの映画の登場人物たちのキャラクターをつかみ、それを音楽に表現したのだろう」と思ったそうです。

 その答えは「ビル・コンティはイタリア人なのだ」ということです。イタリア系の皆さんは結束が固いですね。マフィアのようです。そして、ビルはこの頃はまだ駆け出しの作曲家でしたが、この作品で一躍有名になりました。

 ここで聴かれるサウンドは、ザ・サントラとでも言うべきサントラです。ボーカル曲が三曲ありますが、さほど自己主張が強くはなくて、映画音楽としての分をわきまえています。そのうちの二曲は「ロッキーのテーマ」なわけですが、ボーカル入りと聞いて驚く人も多いでしょう。

 ピアノ・ソロだったり、オーケストラだったり、音色は多彩ですが、それも含めて極めて映画に密着した音楽ですので、映画のことを思い浮かべずに聴くことはほとんど不可能です。その意味でもとても良くできたサントラだと思います。

 しかし、悩ましいことに、このサントラCDの「ロッキーのテーマ」を聴くとかなり違和感を覚えます。何だかいろいろ錯綜していますが、映画で使われたヴァージョンとCDのヴァージョンは違うようですね。

 さらにトランペットのメイナード・ファーガソンのカバー・ヴァージョンもトップ30ヒットになっていて、こちらも耳に馴染みがあります。さらに「ロッキー」には続編がいくつもあって、その中でも違うヴァージョンが聴かれます。

 さらにはこのテーマは他の曲にも使いまわされていますから、もう何が何やら。ロッキーのテーマをコレクションするだけでも楽しそうです。映画とともに永遠の命を与えられた楽曲にのみ許された楽しみでしょう。

Rocy / Bill Conti (1976 United Artists)