このジャケットは一昔前のセンスです。現時点からという訳ではなくて、発表当時の時点でそうだったと思います。70年代前半の英国的ポップ・ロック・バンドのジャケットにありそうです。決して当時のニュー・ウェイブ的な絵面ではありません。

 そんなピンクのジャケットに包まれたケヴィン・エアーズさんの新作は、前作から2年ぶりに発表されました。この間、ケヴィンはスペインに引っ込んでいて、みんなの前に姿を現したのがそもそも2年ぶりだったとのことです。

 満を持して放たれた新作でしたが、さすがにさしたる音楽活動もせずに2年が経っていますから、バックを固めるミュージシャンは、恒例のオリー・ハルソールさん以外はほとんど入れ替わっています。

 プロデュースは前作にも参加していたヴァイオリンを弾くグレアム・プレスコットさんが担当しています。どうやら彼はレーベル・サイドから売れ線で作るように言い含められていたとの疑惑があります。

 その結果、出てきた音は確かに売れ線っぽい音の作りになっています。特にA面となる前半の楽曲がそうです。キラキラした軽い音が全体を覆っていて、ポップ路線ここに極まれりという感じです。

 アンソニー・ムーアさんのプロデュースとは対極にあります。しかし、こうして売れ線でやっても逆にケヴィンのファンは離れるばかりでしょう。当時は酷評されたのではなかったかと思います。中途半端なんですよね。

 しかし、相変わらずのケヴィン節ではあるので、かーっとしなければ十分に楽しめる作品です。スティール・ドラム風の音も入っていますし、トロピカルなムードも漂っていて、いつものケヴィンの低音が素敵です。

 ただ、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの「アイル・ビー・ユア・ミラー」そっくりの曲があったり、「カリビアン・ムーン」のメロディーを彷彿させる楽曲があったりと、歌の中で曲が書けないと嘆いている部分に説得力があります。

 歌詞も常と変らずストレートながら皮肉に満ちていますし、オリーのギターも活躍しています。悪くはありませんが、頭抜けているわけでもない。ケヴィン史の中ではそんな位置にある作品です。

 この後、ケヴィンは完全にスペインに移住してしまうことになります。英国音楽界とはしばらくお別れということになってしまいます。ほとほと音楽業界に嫌気がさしたということなのか、スペインの太陽に魅せられてしまったということなのか。後者であってほしいですね。

 ケヴィンにはパトロンがいて、スペインでも生活には困らなかったという噂を聞いたことがあります。この部分が最高に羨ましいですね。宮廷音楽家のさらに自由なバージョンです。人たらしなんですね。

That's What You Get Babe / Kevin Ayers (1980 Harvest)