ジャケットには青空を見上げるケヴィンさんのお姿が写っています。「レインボウ・テイクアウェイ」の意味が分かり辛いのですが、ジャケットから推測すると「虹のお持ち帰り」でしょうか。テイクアウェイはイギリスではテイクアウトの意味もありますから。

 しかし、タイトル曲の歌詞はそんなにファンシーな話ではなくて、恋人への恨み言が延々と続きます。意味が分かりにくいです。曲調はのんびりしてるんですけれどもね。ケヴィンの英語感覚についていくにはまだまだ修行がいりそうです。

 前作がかなりメインストリームのポップスだったのに対し、今回はプログレ風味が戻ってきました。これは一重にプロデューサーの違いです。今回はなんと英国プログレ界の重要バンドであるスラップ・ハッピーのアンソニー・ムーアさんです。

 ムーアさんはかなりアヴァンギャルドな音楽もやっていますが、はたまたポップな楽曲もこなす才人です。ちょうどこの頃、スラップ・ハッピーがこれまた英国プログレ界の至宝ヘンリー・カウと合体していて、ムーアさんは再びソロ・キャリアと追及し始めていました。

 そして、当時は発売されませんでしたが、ソロ・アルバム「アウト」を制作しています。ここにケヴィンを始め、デヴィッド・ベッドフォードやロル・コックスヒルなどが参加したお返しという意味合いもこめて、このアルバムのプロデュースにあたったのだそうです。

 結果は、カンタベリー・シーンの重鎮としてのケヴィンが復活したような形になりました。楽曲自体は、前作同様ポップなんですけれども、サウンドが一癖も二癖もあります。バンド・メンバーは前作とほぼ同じですが、サウンドの質感が違います。

 アンソニーはキーボードも担当していますが、さして前面に出てきて存在を主張するわけではありません。その真骨頂は音響にあります。全体により俯瞰的な音になっていることはもとより、背景に見え隠れする効果音も含めて音のセンスが抜群です。

 またリズムがいいです。レゲエ調だったり、ボサノヴァ風だったりとかなりリラックスした風味が、ケヴィンの低音脱力ボイスを引き立てています。繰り返しになりますが、これが前に出て来過ぎずに引いた感じの音響になっているところがいいです。

 パンクからニュー・ウェイブ全盛時代でしたから、こうした作品が受ける素地はあまりない時代でした。アンソニーやケヴィンは元祖パンク的な捉えられ方をしてもおかしくない人たちですけれども、なかなかそうはなりませんでした。

 ただ、日本ではちょうどヴァージンの初期作品が出されたりして、彼ら周辺の再評価の機運は高まっていました。しかし、それでもポップな意匠をまとったリアルタイムの彼らまではなかなか行き渡らなかったように思います。

 ケヴィンはこのアルバムを発表した後、スペインのマヨルカ島に引っ込んでしまいます。自由人の本領発揮です。ほとほと音楽業界が嫌になったのではないでしょうかね。失意だったのかもしれませんが、私から見れば羨ましくて仕方がありません。

Rainbow Takeaway / Kevin Ayers (1978 Harvest)