おかまのお姉さんですよね。どうみても。アイランド・レコードはケヴィンを可愛らしいロックスターとして売り出そうとしていたそうです。ということはこの変てこなイラストもそっちの意味合いなんでしょうか。むしろ「デカダンの貴公子」の方がぴったりします。

 このイラストは、トニー・ライトさんというジャケット・アートで有名なアーティストの手になるものです。彼の有名な作品としては、スティーヴ・ウィンウッドの「アーク・オブ・ア・ダイヴァー」やボブ・ディランの「セイヴド」などがあります。

 この作品はケヴィン・エアーズさんのアイランド・レコード移籍第二弾となる作品です。前作はルパート・ハインさんのプロデュースによる作品でしたが、今回はこの後も長い付き合いとなるオリー・ハルソールさんとの共同プロデュースです。

 どこが違うかと言うと、ルパートとオリーではケヴィンとの近さが違います。前作がルパート人脈によるミュージシャンを集めて制作されているのに対し、この作品ではオリーを中心に気の合った仲間によって制作されています。雰囲気がまるで違います。

 もっとも今回は超大物スター、エルトン・ジョンが参加して、彼と分かるピアノを弾いています。意外に映えるものです。素敵なピアノです。これは、エルトンのマネージャーのジョン・リードさんが、この時期、ケヴィンも手掛けることになった縁によるものです。

 リードさんはケヴィンを可愛いロック・スターとして売り出そうとしていて、朝早い子供向けテレビ番組にケヴィンを出演させたりしたそうです。カンタベリーのアヴァンギャルドなプログレ男だったはずなのに、その落差は大きいです。

 この作品はケヴィンの作品の中でもストレートなロック寄りになっています。プロモーション戦略とも相まって、評論家受けは良くなかったようです。アヴァンギャルド的な期待をしていた評論家陣とは相性がよいはずはありません。

 しかし、この作品から本格的に始まるオリーとの共同作業による作品は素晴らしいものです。ビートルズのパロディーだったラトルズにも係わっていたオリーの少しねじれたポップ感覚はケヴィンとの相性が抜群です。

 ケヴィンが心を許している様子がありありと見て取れ、肩の力が抜けてとてもリラックスしたサウンドが素晴らしいです。そして、録音がいい。このサウンドの響きは75年にしてはとても生々しくて素敵です。

 ストレートなロックから、トロピカルな曲、アコースティックなトラッド調のバラード、ロマンチックな楽曲まで、さまざまな表情を見せながらも、低音の歌唱はリラックスした調子で一貫しています。

 アヴァンギャルドなサウンドを期待すると肩透かしでしょうけれども、究極の自由人ケヴィン・エアーズの作品としては、素晴らしいものです。こうした作品への理解がなかなか得られなかったことが彼にとっては不幸なことでした。

Sweet Deceiver / Kevin Ayers (1975 Island)