これはもう邦題が凄すぎます。何たって「悪魔の申し子たち」ですよ。しかも、その「歴史的集会より」です。悪魔界のサミットが行われた夜の記録とでも言わんばかりです。恐ろしいことです。このメンバーの中で悪魔っぽいのはニコ嬢だけですけどね。

 ただ、邦題の気持ちは分かります。コマーシャルの王道を行くロック界のメインストリームとは別の流れに位置する裏スーパースターたちが集合しているわけですから、オルタナティブという意味合いを入れたかったんでしょう。それが悪魔というのが面白いですが。

 ここに集った人々は、裏ロック界の帝王ヴェルベット・アンダーグラウンドがらみの二人、ジョン・ケイルとニコ、そしてロキシー・ミュージックを脱退したイーノ、ジャケットには写っていませんが、エクソシストのマイク・オールドフィールド、さらにはソフト・マシーンの盟友ロバート・ワイアット、主役はケヴィン・エアーズと、私などから見れば垂涎のスターばかりです。

 この興奮を伝えるのに「悪魔」、そして、「歴史的集会」です。気持ちは痛いほど分かるんです。私もこの面子を初めて見た時には涎がでましたから。

 この作品は、ケヴィン・エアーズさんのアイランド移籍第一作目の「夢博士の告白」が発表されたことを記念して、ロンドンのレインボー・シアターで行われたライブの模様を記録したアルバムです。名前を列挙した方々はいわばゲストです。

 アルバム前半はそのゲストの方々の演奏です。最初の2曲は、まだお化粧しているイーノ先生のソロ・デビュー作からの2曲、次いでジョン・ケイル翁によるまさかのエルヴィスのカバーが一曲、最後は8分に及ぶニコ嬢の「ジ・エンド」です。もちろんドアーズの曲です。

 演奏はケヴィン・バンドがやっていますが、「ジ・エンド」だけはニコとイーノによるシンプルな演奏です。何とハルモニウムを弾きながら、リズム感のない歌声で歌います。これは確かに悪魔の歌のように聞こえます。ニコの真骨頂ですね。

 後半は、ケヴィンのセットで、5曲が披露されます。アルバム発売記念のはずなのに、「夢博士の告白」からは2曲だけで、残りの3曲は既発作品の中から選ばれた代表曲です。冒頭はもちろん「メイ・アイ」です。

 ケヴィンのバックには未来に向けて盟友となるオリー・ハルソールと、4作目で意気投合したアーチー・リジェットがともに係わっていて、息の合ったところを聴かせてくれます。スタジオ作品よりもさらにリラックスしていて、ほっとさせられます。

 とまあこんな歴史的集会が開催されていたわけです。1週間のリハーサルを経て行われたこのコンサートは、3000人もの観客を集めたソールド・アウト・コンサートでした。面子をみて興奮した人が少なくとも3000人はいたということです。

 歴史的価値以上の意味合いがあまり語られない作品ですけれども、それぞれの演奏がライブで聴けるのはありがたいことです。そのどれもがスタジオ盤とは違う魅力を発しています。その意味では、豪華な限定カタログであるとも言えそうです。

June 1, 1974 / Kevin Ayers, John Cale, Eno, Nico (1974 Island)