バナナへの偏愛というと日本ではガッツ石松さんですが、イギリスではケヴィン・エアーズさんです。この作品は「バナナムール」と題されています。バナナとアムールをくっつけた造語ですね。「ユーモアを失わない愛」のことだとは本人による解説です。

 表ジャケットにはイヴニング・スーツを来た二本のバナナ、裏ジャケットにはドレスアップしたバナナ嬢が二本。これが対となっていて、バナナ・ラヴを表しているようです。バナナがあまり美味しそうに見えないのが残念です。

 ケヴィン・エアーズさんの4作目、ハーヴェスト・レーベル最後の作品です。前作まで組んでいたマイク・オールドフィールドさんは、例の「チューブラー・ベルズ」のおかげで忙しくて不参加です。その代わりにゴングのヒッピー、デヴィッド・アレンの紹介でベーシストのアーチー・リジェットさんと組むことになりました。

 アーチーはセッション・ミュージシャンとして、スモーキー・ロビンソンからスタン・ゲッツ、シルヴィー・ヴァルタンまで、場数を多く踏んだ人で、ケヴィンとは大そうウマが合ったようです。ツアー・バンドにアーチボールドと名付けたところにもそんな相性の良さが出ています。

 今作ではデヴィッド・ベッドフォードさんの参加はごく限られていて、アーチーを中心とするメンバーとの制作となっています。新顔はこれもゴングにいたスティーブ・ヒレッジ、のちにギターで活躍することになる人です。

 そんなメンバーの違いもあって、前作までに見られたアヴァンギャルドなテイストはかなり抑えめになっています。各楽曲はこれまでに比べるとポップにまとまっていて、リラックスした雰囲気がとても心地よいです。

 各楽曲の簡単な本人解説も掲載されていて、これがなかなか含蓄に富んでいます。中でも注目は、少しアヴァンギャルドな感じの曲「退廃」と、フォーキーな曲「オー・ホワット・ア・ドリーム」でしょうか。

 前者はアンディー・ウォーホールの秘蔵っ子だったニコ、後者はピンク・フロイドのシド・バレットと係わっています。そう言われてみれば、どちらもそんな雰囲気です。この系譜は分かりやすいですね。ニコ、ケヴィン、シド。シドとケヴィンは会ったことがないそうですが。

 同時期に発表されたシングルは、「カリビアン・ムーン」でカップリングは「タヒチに連れていって」でした。ヒットするには至りませんでしたが、ケヴィンの気分が分かるというものです。タヒチやカリブ。これまでよりもさらに明るく軽快です。

 一方で、さらにニコに捧げた「ヒム」という曲もあって、アートな志向も見られるのですけれども、あくまでこれまでとの比較で言うと、よりポップで軽快です。しかし、ケヴィンの音楽は明るくて気楽なんですが、奥に哲学的なものを感じます。そこが素敵です。

 人生、なんていうものを考えさせる人です。さまざまな屈託もありながら、自由を求めてやまない放浪者ですからね。

Bananamour / Kevin Ayers (1973 Harvest)