ロード・ダンセニーの「ペガーナの神々」を一瞬思わせる素敵なジャケットです。東洋風でもあるなあと思って眺めていますと、クレジットはトム・フーという人になっていました。名前から察するに中国系の方ですね。

 ケヴィン・エアーズさんのセカンド・アルバムは、ホール・ワールドというバンド名義になっています。このバンドはケヴィンがファースト・アルバムのプロモーションを行うに際して、バンドがないと困るということで結成されたものです。

 メンバーには、前作に見事なアレンジを施していた現代音楽の旗手デヴィッド・ベッドフォード、フリー・ジャズ界で活躍していたロル・コックスヒル、そしてドラムはミック・フィンチャー。ミックのことは調べてもよく分かりませんが、このアルバムが活動の起点のようです。

 そして、何と言ってもマイク・オールドフィールドの名前が燦然と輝きます。この頃はお姉さんと一緒にサリアンジーとしてレコード・デビューしたばかりでした。まだ17歳。このバンドではベース、時々ギターを担当しています。

 このバンドはもともとライブのために集まっているわけですが、結局、そうしたツアーはまたまたケヴィンを疲れさせることになり、ほんの1年ちょっとしか続いていません。しかし、それぞれがそれぞれに依存している人たちではありませんから、解散も爽やかだった模様です。

 嬉しいことにこのバンドで一枚作ろうということになって、出来たのがこのアルバムです。そもそも畑の違う人たちの集まりですが、その相互作用によって生まれたサウンドは素晴らしいことになっています。前作に比べると実験色がとても強いです。

 冒頭には永遠の名曲「メイ・アイ」が置かれています。♪ここに座ってあなたを眺めていてもいいですか?あなたの微笑みと一緒にいたいんです♪、とはまあピッタリはまると素晴らしいナンパ文句ですよね。一度は言ってみたいものです。

 この曲などはジャジーな雰囲気のお洒落なポップなんですが、「ヴァイオリンにお漏らし」や「水の中」など、ケヴィンのボーカルが入らないインスト曲での実験ぶりは凄いです。さすがに名うてのミュージシャン揃いですから緊張感が高いフリーな演奏です。

 そんな曲と「カキとトビウオ」なんていうメルヘンな曲、メルヘンとアヴァンギャルドを統合したような「ラインハルトとジェラルディン」、マイク・オールドフィールドのギター・ソロがかっこいい「狂人の嘆き」だとか、バラエティー豊かです。

 ここを取り上げて「むらがある」という評をくらったようですけれども、前作に比べるとバンドになっているだけあって、圧倒的に統一感があります。かなり前作のノンシャランな空気とは色あいが異なっています。プログレの名に相応しいサウンドです。

 バンドのインタープレイが楽しめるという意味では、ケヴィンのソロというよりもバンドのアルバムです。ただ、やはりケヴィンのとぼけたボーカルが入ってくるとどんなアヴァンギャルドもほんわかしてくるところが素敵です。この作品も素晴らしい作品です。

Shooting at the Moon / Kevin Ayers and the Whole World (1970 Harvest)