YMOの「増殖」と同じ発想のジャケットです。永遠にコピーが続いていく絵は大そうお茶目です。カンのメンバーがジャケットに登場するのは初めてのことでした。これ、バックは大英博物館ではないかと思います。マイク・オールドフィールドの「チューブラー・ベルズ」でおなじみのトレバー・キーさんの手になる作品です。

 さらにお茶目なのはタイトルです。これは、カンの未発表曲集だったタイトル通りの「リミテッド・エディション」に6曲加えてヴァージンから発表された二枚組アルバムです。これまたタイトル通りリミテッドではなくなりました。

 カンの未発表曲集です。アウトテイク集という言い方もありますが、カンの場合はそういう表記は似合いません。カンの面々は自前のスタジオ「インナー・スペース」を持っていて、生活空間も兼ねていましたから、延々と自由に演奏を繰り広げることができました。

 アルバム制作のためにマテリアルを持ち寄って1曲1曲仕上げていくというわけではありません。自由な演奏やら何やらを何でも録音しておいて、それを編集してアルバムを作っていくという手法です。ホルガー・シューカイさんのエンジニアとしての編集の腕も凄いわけです。

 つまり、アルバムはカンという有機体の活動の一面を切り取ったものだということになります。別の切り口で切り取れば全然別のアルバムになる可能性もあるわけで、単なるアウトテイクという言い方が間尺に合わないのはそういう理由によります。

 このアルバムにはマルコム・ムーニー時代からダモ鈴木時代、そしてその後の4人カン時代とカンの全キャリアを網羅した時代から音源が選ばれています。しかし、カンの進化の後を辿ろうとしても無駄です。編集は新しい視点からされているのでしょう、見事に統一感があります。それにカンには進化という言葉は似合いません。最初から完成体です。

 この作品をカンの最高傑作に推す人も実は結構多いです。なるほど見事に自由度が高いです。アルバム制作という軛が外れていることも大きいのかもしれませんね。それにマルコムさんとダモさんのボーカルも楽しめますからお得です。

 やっぱりボーカル入りの曲がいいです。ダモさんは「どこへ」という曲で日本語で公害のことを歌っています。当時日本は公害に悩んでいました。ダモさんは日本に帰っていたくその状況に心を痛めた様子です。この曲に限らず彼がボーカルをとる5曲は空気が違います。相撲の呼び出しや能の掛け声のようだったり、大活躍です。

 一方、マルコムさんの方も負けてはいません。よりストレートにパンク的であり、かつどこかに狂気を宿したような迫力のボーカルがぐいぐい引っ張っていきます。

 さて、この作品にはEFS、似非民族音楽シリーズがてんこ盛りです。ライナーのシュミットさんの発言通り、「グループ全体がEMS的存在なんだよ」ということです。ポピュラー音楽の本質に極めて自覚的な素敵な人たちです。

 この作品は、なんでもありの元祖カンの素顔を網羅した楽しい作品だと言えます。

Unlimited Edition / Can (1976 Virgin)