完璧なジャケットです。グレースのポートレート写真を元にした絵になっています。グレースはアルマーニのジャケットを素肌にまとっています。火のついてない煙草といい、真四角な髪型といい、すべては完璧です。この上なくお洒落です。

 グレース・ジョーンズがアイランド・レーベルに残した作品はどれも素晴らしいものですが、とりわけこの作品は素晴らしい。イギリスではニュー・ミュージカル・エクスプレス誌の選ぶ年間ベスト・アルバムにも選ばれています。

 この作品はバハマにあるコンパス・ポイント・スタジオで録音されています。このスタジオは当時最先端の音を生み出していました。本作品は、アイランド・レーベルの社長クリス・ブラックウェルとコンパス・ポイントのチーフ・エンジニアだったアレックス・サドキンのプロデュース、バックを固めるのはコンパス・ポイント・オールスターズとまさにスタジオの申し子です。

 オールスターズの中心はもちろん伝説的なレゲエのリズム隊スライ&ロビーです。それこそ数えきれないアーティストをサポートしていて、ナッシュヴィルのマッスル・ショールズ・リズム・セクションと並び称されるミュージシャンたちです。

 その数あるオールスターズの参加アルバムの中でも、この「ナイトクラビング」は頭抜けた地位にあると思います。もうとにかく滅茶苦茶カッコいいです。レゲエをベースにしたクールなサウンドは素晴らしすぎます。

 グレースの存在感も凄いです。圧倒的な存在感で女優もこなす彼女ですけれども、残念ながら007への出演は余計でした。何もあんな化け物みたいな女を演じなくてもいいのに、と悲しくなりました。大きなお世話ですけれども。

 話はそれましたが、この作品にはオリジナル曲は3曲だけですけれども、どれがカバーでどれがオリジナルだとかまるで関係ありません。すべてはオールスターズとグレース色に染め上げられていて、圧倒的なオリジナル感です。

 私が大好きな曲は、「リバータンゴ」です。この曲はヨーロッパでは大いに人気があり、ベルギーでは1位になっています。タンゴの神様アストラル・ピアソラの曲をモチーフにしたクールなことこの上ない名曲です。イギー・ポップの「ナイトクラビング」も収録されていますが、その題名に相応しいのはむしろこちらの曲の方だと思います。

 彼女はディスコ・シーンで活躍していたわけですけれども、アイランド三部作はニュー・ウェイブ・サウンドにすっきりと近寄ったサウンドになっています。その背骨を当時のニュー・ウェイブ勢が好んで取り上げたレゲエっぽいリズムが貫いています。

 このあたりのサウンドをお洒落にまとめるのはよほどの存在感がないと難しいわけで、グレースのこの作品はもう奇跡の一枚と言ってよいと思います。とにかく非の打ち所がない。久しぶりに聴きましたが、まるで古びていません。

 とんでもないハイセンスなアルバムです。新装再発されて本当に嬉しいです。

Nightclubbing / Grace Jones (1981 Island )