ジャケットは不気味なイラストです。写真が小さくて分かりにくいですけれども、どうやら人の頭で、脳みそと口から出ているエクトプラズムが同じ絵柄となっています。ぐりんぐりんする不気味な絵面が、中の音楽を見事に表現しています。

 「タゴマゴ」はカンの2枚組の傑作です。ダモ鈴木さんが全面的に参加したアルバムで、カンの代表作に数えられています。ダモさんはミュンヘンで大道芸をしていたところをホルガーさんが見つけ、その日からメンバーになりました。

 マルコムからダモへの交代で、カンのサウンドは大きく変化しました。もともと誰がリーダーというわけでもなく、各メンバーが対等な関係にあるような集団ですから、メンバー交代は大きな転機になるわけです。何と言っても、イルミン曰く「力強く、躍動する有機体」ですから。

 アルバムはA面に3曲、B面、C面が1曲ずつ、D面が2曲と2枚組にわずか7曲です。CDだと一枚に収まってしまいますが、70分以上ありますから、結構長くて、B面C面は20分弱の長尺となっています。

 A面の三曲は比較的それまでのカンらしいサウンドです。土俗的な暗闇リズムを背骨に持ついかにも集団即興っぽい有機体音楽です。ダモさんのボーカルは、素人だと言いながらも結構音楽的だったマルコムと違い、パフォーマーのそれです。表現力は豊かですが、ボーカリスト的ではない。そこが大いなる魅力です。

 三曲目の「オー・イエイ」では、ダモさんが途中から日本語で歌っています。♪虹の上から小便♪とか。日本語のせいでもないのですが、この曲に限らず、どことなく一部に歌謡曲的な雰囲気が漂うのが面白いところです。

 B面は「ハレルヤ」、カンの代表曲と言ってもよい人気曲です。ライナーによれば、この曲は「リズム・ループの編集により、当時の常識をはるかに超えるやり方で作られ」ました。休憩時間も含めて、常時スタジオでテープを回していて、それを編集して曲に仕立てるという構築的な手法が取られたようです。集団即興のカンではないわけです。

 リズム・トラックが、これまでのもやもやした感じとは異なり、くっきりはっきりしているので、カンの新境地であることがよく分かります。ダモさんの叫びを加えて、反復するビートが見事な緊張感で突っ走る人気曲です。

 問題はC面の「オーム」です。インドの聖なる音をタイトルに持つこの曲は、ビートのカンなのに、そういう構造を持ちません。空間への音のインスタレーションと言いますか、現代音楽的なアプローチです。まるでロック的でないところが素敵です。

 D面の「ペキン・オー」もその流れの楽曲で、最後に「ブリング・ミー・コフィー・オア・ティー」でA面に戻ってほっとさせて終わります。そう考えてくると、アルバムのコンセプトはしっかりと事前に準備してあったんでしょうね。ごった煮的なカンの音楽をクールに見ています。

 このアルバムはドイツではトップ50に入るヒットとなりました。71年にこれは凄いことです。

Tago-Mago / Can (1971 United Artists)