この作品は、ウルマーさんがコロンビア・レコードと契約してから2作目にあたります。この頃、ウルマーさんの作品はパンクの老舗インディーズのラフ・トレードからも発表されていたりしましたから、ロックを聴いていた我々の耳にもウルマーさんの作品は馴染みがあります。

 私はラフ・トレードには思い入れがありまして、随分後になってからですが、初めてロン ドンに行った時には、その小さなレコード・ショップを尋ねたものでした。そんなラフ・トレードがかかわっていたものですから、ウルマーさんもてっきりニューウェイブの人かと思っていたほどです。

 聴いてびっくりしました。どちらかと言えば、ジャズですよね。しかし、ファンク魂溢れるジャズですから、当時ファンクに接近していたニューウェイブ・サウンドに浸っていた私にはさほど違和感がありませんでした。幸せな出会いです。

 この作品はねっとりと熱いです。そして同時にとてもクールです。ゴリゴリのファンク・リズムに硬質のギターが踊る様はかっこいいの一言です。「ジャズ、ロック、ブルー ス、ソウル、ファンク、何とでも呼べ。俺たちゃグレート・ブラック・ミュージックをやってんだ」というアート・アンサンブル・オブ・シカゴのレスター・ボウイのきめ台詞がこれほど似合う音楽はありません。

 音楽にジャンル分けなどいりません。確かに音楽を聴く時にはその通りです。これはジャズだからこう聴かなきゃいけない、とかそういうことは一切ありません。しかし、音楽を語る時にはある程度分類が必要です。そうしないと伝えるのが難しいわけです。

 ですから、分類しやすくない音楽はメディアにのりにくいです。ウルマーさんの音楽はまさにその典型です。ジャズ、ロック、ブルースそれぞれの専門誌から、一通りの賛辞を受けるものの、どこでもどこかしらよそ者扱いされています。

 不当な扱いだと思いますがしょうがありません。その結果、多くの人の耳に届きにくいことになてしまっています。そこが、ウルマーさんの不幸なところです。

 そのうえ、ウルマーさんはジミヘン以来の革新的なギタリストと称賛されていましたし、アフリカン・ドローン奏法だとか、ハーモロディック奏法だとかギターを極める求道者的なイメージで語られることが多いです。

 ところがどっこい、彼は本質的にはけっこうなエンターテイナーです。あれは1992年のこと、ロンドンの小さなクラブで彼の演奏を間近に見たことがあります。ふとっちょのアミン・アリを従えて、アフリカン・モスリムのきんきら衣装を身にまとったウルマーさんはとてもかっこよかったです。

 野太いリズムに、ゴリゴリのギターが、まるで火山の湖のようにボコボコと泡立っている風情はこのアルバムの通りでしたけれども、センターに立ったウルマーさんは、踊りながらギターを弾きまくり、歌いまくっていました。運良くかぶりつきで見たのですが、目が合うとにこやかに微笑んでくれたような気さえします。

 とてもカッコよかったです。

Black Rock / James Blood Ulmer (1982 Columbia)