ヴィシュヌはインドの神様のお一人です。しかも神々の中心で、その化身がクリシュナであり、ラーマであり、お釈迦様でもあるという凄い神様です。また、マハは「偉大な」という意味ですから、マハヴィシュヌとは恐ろしい名前であることが分かろうというものです。

 この作品はイギリスの超絶ギタリストであるジョン・マクラフリンのプロジェクトであるマハヴィシュヌ・オーケストラの代表作です。この頃、マクラフリンさんはマイルスの問題作「ビッチェズ・ブリュー」に参加して話題となっていました。

 その彼が始めたプロジェクトですから、話題にならないわけがありません。メンバーは同じマイルス門下のドラマー、ビリー・コブハムを中心に、キーボードには後にジェフ・ベックと共演するヤン・ハマー他で、ホーンが入らず、その代わりにジョンのギターとジェリー・グッドマンのヴァイオリンがリードを務めます。

 楽器編成が楽器編成だけに、これは正統派ジャズというよりも、いわゆるフュージョン、あるいはジャズ・ロックとして捉えられていました。そのため、ロックのオーディエンスにも馴染みが深く、私の中学校でも話題になっていました。ギターを齧った同級生には眩しいアルバムだったようです。

 圧倒的な迫力で疾走するフュージョン・サウンドは圧巻なのですけれども、この作品はかなり賛否両論あります。そもそもジョン・マクラフリンさん自体の評価がかなり幅が広いですからね。

 一方の極みにはジョン・マクラフリンを神のように崇める人々が存在します。バンド名から明らかなかように、マクラフリンさんはインドのスピリチュアリズムにはまってしまった人ですから、なおさら崇めやすいです。

 もう一つの見方は彼のことを胡散臭いトリック・スターとして扱うものです。彼の音楽自体を見かけ倒しの内容のない音楽だと言いきる人々がいらっしゃいます。そっちの見方をとるとインドかぶれも軽薄さの極みだということになります。

 インドかぶれの点については、インドのファンとして言わせていただくと、マクラフリンさんは後にインドの名演奏家たちを世界に知らしめることに大いに貢献しましたから、私はこれは高く評価しています。インドの音楽への尊敬の念が明らかです。

 音楽の方はどうでしょう。マハヴィシュヌ・オーケストラの作品の中で最も有名なこの作品を何度も聴いていますけれども、未だに結論を出すことができません。

 変拍子を多用するテンポの速い超絶技巧の楽曲が中心で、その迫力にはかなり惹きつけられます。加えてロマンチックなスローな曲もあったりして楽曲の幅も広いです。それにギターの音色は綺麗ですし、バイオリンも大活躍です。

 爽快感が残る一方で、どこか見世物的というか何と言うかぺらんぺらんな感じも受けます。シリアスさがなければもっと楽しめたかなと私は思います。

Birds of Prey / Mahavishnu Orchestra (1973 Columbia)