アメリカの現代音楽の巨匠、ロバート・アシュレーが1979年に発表した作品です。発売は私の愛するラヴリー・ミュージックです。このレーベルは良質なアメリカの現代音楽を発表し続けているレーベルです。録音は1977年。この人は1930年生まれといいますから、当時47歳でした。惜しくも今年亡くなってしまいました。合掌。

 この作品はどういう作品かと申しますと、アシュレーさんがずーっとだらだらしゃべっている作品です。伴奏しているのは、同じくラヴリー・ミュージックから作品を発表しているブルー・ ジーン・ティラニーさんの鍵盤と、クリスという人のタブラだけです。それも至極控えめな伴奏で、声が前面に出ています。

 メロディーらしきものはありません。本当に普通にしゃべっているんです。しかも、きれいな声には程遠く、眠気を催す類のくぐもった声で、もそもそしゃべっています。もともとは歌手が予定されていたらしいですが、呼ばれた歌手も困ったでしょうから、まあ自分でやって正解でしょう。

 アシュレーさんは、テレビ用の新しいオペラ作品で有名ですけれども、この作品を構成する二曲!「公園」と「裏庭」は、その彼のオペラの代表作「ザ・プライベート・パーツ」の最初と最後に使われることになりました。

 オペラ!それはびっくりです。伝統的なオペラ像からは程遠いです。だって、もそもそしゃべるだけですよ。ミュージカルからも程遠いです。演劇の方がむしろ音楽的なくらいです。繰り返しますが、メロディーはありません。それにラップのようなリズム感もありません。ただひたすらぼそぼそぼそぼそ。

 語っているのは物語なんでしょうか。冒頭の一節は♪彼は自分のことをシリアスに受け止めている♪、最後の一節は♪私はかつての私ではない♪で終わります。少なくとも手に汗握る展開の物語が展開されているわけではないようです。

 あまりに抑揚なくぼそぼそ話しているので、最後まで注意力を持続することが困難です。ただ、特に難しい英語ではありませんから、聴くたびに、いくつかのフレーズが耳に残ったりします。♪カメラは映るものに憑かれている♪とか。

 この作品に対する感想の中に、仲間内での会話に、この作品の歌詞から引用することがはやったなんていうものがありました。何だか知的な感じもしますし、楽しそうですね。そんな楽しみ方が似合います。

 英語は母音ではなくて子音が鍵なんだとアシュレーさんは語っています。確かに日本語と比べて圧倒的に子音は豊富です。ここでの試みは言葉の意味ではなくて、音楽としての話し言葉に注目するということなのかもしれません。

 この作品はレコードの頃から持っていまして、結構何回も聴きました。どこがどうというわけではありませんが、寝入りばななどに聴くととても気持ちが良いです。麻薬のような音楽です。

Private Parts / Robert Ashley (1979 Lovely Music)