何とも可愛らしい名前のバンドです。ニュー・ウェイブ時代に颯爽と登場した時には、「マジか?」と思ったものですが、当時はデュラン・デュランやカルチャー・クラブが活躍していた時代で、軟派なロックの時代でした。

 何とかバンド名には折り合いをつけましたが、彼ら最大のヒットとなった二枚目のアルバムの邦題「キ・ラ・メ・キ・トゥモロー」には最後まで馴染めませんでした。オレンジ・ジュースは知らされていたんでしょうか。

 しばしばネオアコの元祖とも言われるオレンジ・ジュースのデビュー作です。イルカのジャケットが醸し出す何とも言えない味に惹きつけられて、結構な値段だったにも係わらず輸入盤を買いました。

 オレンジ・ジュースは後にソロとして成功するエドウィン・コリンズとジェームズ・カークの二人のギタリストを擁するポスト・パンク期のポップなロック・バンドです。ネオ・アコースティック、略してネオアコという言葉は当時は使われておらず、パンク以降の新感覚な若手バンドという捉え方だったと思います。

 ヘロヘロしたギター、ヘロヘロしたボーカルが特徴的な捻ったポップ感覚のロックということでしょうか。アメリカで言えばカレッジ・サーキットの一連のバンドを思わせます。私は、久しぶりに聴いてみて、ジョナサン・リッチマンあたりを思い出しました。

 ネオアコの元祖とされるのは、日本でネオアコ・ブームを引き起こしたとされるフリッパーズ・ギターが影響を受けたアーティストとして、アズテック・カメラと並んでこのオレンジ・ジュースを上げたからだと思われます。

 日本は、この後、渋谷系と言われる一群の音楽が現れて、その中でネオアコの人々が発掘されていったという事情があるようです。そんな成り立ちですから、ネオアコというムーブメントがあったわけではありません。大たい、オレンジ・ジュースはアコースティックじゃないですし。

 このバンドの音を解く鍵と思われるのは、「L.O.V.E.Love」でしょうか。これはアル・グリーンの曲のカバーです。シンセと思われるブラスの使い方とか、結構ソウルっぽいところがあるんですよね。

 そしてもう一つは、「コンソレーション・プライズ」に出てくるロジャー・マッギンの名前。ロジャーはサイケの大物ザ・バーズのギタリストです。そう、ギターの響きとかサイケデリックな感覚がほの見えるんです。

 英国ではフランズ・フェルディナンドあたりに影響を与えたと言われるオレンジ・ジュースです。ソウルやサイケといった、当時はまださほど大昔ではなかった時代の音楽を消化して、さらに後世に伝えるというなかなか立派な役目を果たしています。

 卓越したソング・ライティングのセンスで大変気持ちの良いアルバムを作ったと思います。ただ、残念ながら、エドウィンとジェームズのコラボはこれが最初で最後になってしまいました。

You Can't Hide Your Love Forever / Orange Juice (1982 Polydor)