ハウシュカはフォルカー・ベルテルマンさんのソロ・プロジェクトです。彼はプリぺアード・ピアノを追及している人として有名です。プリぺアード・ピアノは、ピアノの中にある弦にさまざまな異物を挟み込んで、いろいろな音が出るようにしたピアノと言うことができます。

 言うまでもなくジョン・ケージさんが先駆者ですが、ベルテルマンさんは彼のことを知らない時に自ら編み出したそうです。もともと、ケージさんもピアノにドラム・キットを代用させるために考えたそうですから、他にも必要に迫られて思いついた人がいてもおかしくはありません。

 この作品は、1曲を除いてほぼハウシュカのプリぺアード・ピアノのみによる演奏です。正確には、「プリぺアード・ピアノと他の楽器」とクレジットしてあるところが悩ましいのですが、太鼓のようなリズムの音はピアノによるものであることは間違いありません。

 アルバムは、「見捨てられた街」というコンセプトのもとに、全9曲、「フー・リヴド・ヒア」以外は全て実際に放棄された町の名前がタイトルに出てきます。レコード会社の公式サイトによれば、このテーマはハウシュカがキーボードに向かって一人で座っている時に感じる希望と悲しみを伝えるために選んだそうです。

 音楽を作る時には、いつも孤独でありかつ幸福であると感じるということで、かつて人が幸せに住んでいたものの放棄されて荒れるに任された都市とぴったり合うと言えば合います。CD付属のブックレットには「生き残るための原則」なるテキストが延々と書かれていて、コンセプトがより鮮明になるようになっています。

 サウンドは、よくもこんな音が出るものだというほど多彩です。ドラムやストリングスのような音もピアノなんですね。パーカッシブなサウンドでリズムが奏でられ、「地の底から響くコーラスのような」ピアノのメロディーが歌います。

 冒頭におかれた「エリザエス・ベイ」のみ、ワーグナーの「さまよえるオランダ人」の再発見のために書かれた曲ですが、それ以外は10日間で作曲され、録音されています。コンセプト自体は考え抜かれた末のようですから、後は一気呵成だったということでしょうか。

 悩ましいことにCDジャーナルでは「現代音楽」に、HMVでは「ダンス&ソウル」に分類されています。ベルテルマンさんはロックやヒップホップの世界でも活躍していたこともありますし、この作品のサウンドは、テクノ的でもあり、ミニマル的でもあります。クラブ・ミュージック系のアーティストの作品と並べても違和感は全くありません。

 違いはエレクトロニクスの問題ですかね。ここでのサウンドは、基本的にアコースティックです。ベルテルマンさんは、ステージにラップトップを持ち込まなくてもよいようにプリぺアード・ピアノを使うと語っています。

 シンセサイザーを越える多彩な音色の一つ一つがアコースティックな揺らぎを持っているわけですから凄いです。力強さと美しさを兼ね備えた見事なサウンドは、ネオクラシカルなクラブ・サウンドとして、見事に現代的です。

Abandoned City / Hauschka (2014 City Slang)