ジャケット写真はコンゴのクバ織によるタペストリーで、ヤニス・クセナキスの音世界を表すために選ばれた一品なのでしょう。まずは狙いは当たっているのではないかと思います。クセナキスのパーカッションはやはりアフリカ的で太鼓という名前の方が似合いますからね。

 私のクセナキスさんとの出会いは、学生時代に遡ります。最初に買ったのが、ストラスブール・パーカッション・グループの演奏による「ペルセファサ」のLPでした。銀色に光り輝くジャケットが印象的でした。

 この作品には、その「ペルセファサ」が収録されています。もともとは六人のパーカッション奏者のための作品でしたけれども、今回は一人での演奏です。演奏者は、ダニエル・チャンポリーニさんで、シャルル・アズナブールやミシェル・ルグランなどのポピュラー畑の人とも共演している方です。

 もちろん六人分を同時に演奏しているわけではなくて、5人分はあらかじめ録音されています。そして、5人分を流しながら、六人目のパートをライブで演奏しています。もともと、聴衆を囲んで演奏された作品で、6つのビートと音の航跡が聴衆を音の渦に巻き込みます。

 一人ライブも聴衆を真ん中に置いて実践されています。5人分は書かれた通りに正確にテンポを刻んでいるわけですから、今回の一人パーカションは作者の意図をより正確に反映したものだとも言えそうです。

 CDだと真ん中で聴くわけにはいかないのが残念ですけれども、世界の創造に立ち会うかのような原始を感じさせるパーカッションの響きは圧巻です。タイトルとなったギリシャ神話の冥界の女王ペルセフォネーの世界そのままです。

 チャンポリーニさんはもう一曲「プサッファ」を叩いています。こちらは古代ギリシャの女流詩人サッフォーをタイトルにしたもので、使う打楽器を奏者にまかせるという斬新なアイデアに基づく作品です。「ペルセファサ」には及びませんが、ユーモラスな音が楽しい作品です。

 しかし、このCDの目玉は前半の作品なのでした。ルーマニア生まれのギリシャ人でフランスに亡命したクセナキスさんの若き日の作品がここに登場したということが話題なのでした。1曲目の「ズィイア」は独唱とフルート、ピアノのための作品、2曲目はピアノのための「6つのギリシャのうた」です。両方ともクセナキスさん30歳前後の作品です。

 このピアノ作品と後半におかれた円熟期の打楽器作品との間の航跡を想像するのが、この作品の醍醐味です。建築家としても活躍していて、建築的な音楽を特徴とするクセナキスさんですが、この初期の2作品は、驚くほどロマンチックなんですね。ロマン派の甘い作品とは違いますが、クールで知的なクセナキスさんにしては驚くべきことです。

 とはいえ、ミラン・クンデラの言葉の通りです。「クセナキス作品の音世界は私にとっては美そのものです。感情という泥を洗い落とし、野蛮な情緒を持たない『美』なのです」。さすがは作家です。その通りの美しい世界がこの作品に溢れています。

Zyia, Six Chansons Grecques, Psappha, Persephassa / Ianix Xenakis (2011 Saphir)