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この作品はマキさんのデビュー作品です。私がライブを見た時よりもさらに20年以上さかのぼります。石川県から上京してきたマキさんは、やがて米軍キャンプやキャバレーなどで歌い始め、1968年に寺山修司に見いだされます。
新宿の「蠍座」というアングラ・シアターで寺山さんの演出で公演を行い、それが口コミで人気を呼びました。そして、東芝の実験的なレーベル、エクスプレスから本格的なレコード・デビューを飾ります。そうして初めてのアルバムがこの作品です。
B面の大半はその蠍座でのライブ録音になっています。そのライブ部分の曲構成は寺山さんが手がけています。「時には母のない子のように」の英語版、アダモの「雪が降る」を安井かずみさんが訳詩した曲、寺山さんが作詞を手掛けた「愛さないの 愛せないの」、「13日の金曜日のブルース」、「山河ありき」という構成です。タイトルだけでもかっこいいです。
この部分は、面白いことに曲間に小芝居やインタビューが混じりこんでいます。「売春婦になりたいと思う?」「ときどき思うね」なんていうインタビューです。強烈にいわゆるアングラを感じます。この時代の寺山さんの世界です。
音楽監督を務めたのは山木幸三郎さん。日本を代表するビッグ・バンドである宮間利之&ニューハードのギタリストとして知られ、日本のビッグ・バンドを国際水準にまで引き上げた人であり、若手の指導にも積極的だった方です。
マキさんの自作曲やカバー曲の他はほとんど山木さんの作曲です。山木さんはまたすべての楽曲の編曲も手掛けています。マキさんのアルバムですから、当然ボーカルに注目が集まるわけですが、演奏もかなり味があってかっこいいです。
A面とB面それぞれの冒頭には「夜が明けたら」と「かもめ」というシングル曲を配しているところが、微笑ましいですし、暗い暗いと巷間囁かれますが、暗い感じはしません。「ちっちゃな時から」なんて、まるでクレイジー・ケン・バンドのようです。したたかなんですよね。
ジャケットはまさに「浅川マキの世界」です。しかし、サウンドの方は後のマキさんの凄味とは少し違う初心の魅力の世界ですから、「浅川マキの世界」には違いありませんが、多少違和感が残ります。そんなところも楽しいです。
ボーカルはやはり迫力があります。赤裸々な声にいろんなものが乗っていて、その結果、魔力に満ちたボーカルになっています。若い人には、おそらく「演歌」でくくられてしまいそうですが、編曲は少しジャズっぽいですし、せめて艶歌と呼びたいです。
音楽界の至宝となったマキさんのデビュー作品というだけで十分に価値があります。中毒性が高い作品です。
浅川マキの世界 / 浅川マキ (1970 Express)