ハルメンズのメンバーは少年ホームランズと8 1/2からやってきて、パール兄弟、戸川純とヤプーズ、ヒカシュー、ゲルニカなどへと散っていきました。これらのバンドを大くくりにして、SOBUサウンドと称します。

 これはハルメンズの中心だったサエキけんぞうさんの命名によるものです。中央線も含めた総武線沿線から発生した音楽だということです。メンバーの一人上野耕治さんのご実家が経営する千葉パリー美容専門学校の一室が聖地とされています。

 この当時はYMOが活躍していた時代で、テクノ・ポップがカッコ良いとされていた時代です。ハルメンズはそんなテクノ・ポップの代表選手でした。サエキさんのそれまでにないスタイルの日本語詞と青少年的ボーカルを乗せているのは少しテクノなポップ・サウンドです。

 SOBUサウンドのバンド群は、Jポップという言葉がまだ登場していなかった歌謡界からは、当時の言葉で「とんがった」音楽を奏でるお洒落なバンドだとみなされていました。しかし、当時勃興しつつあったインディーズ界からは「業界テクノ」と揶揄されてもいました。

 今思い返せば、私は後者の立場に近かったですかね。いちいち面倒臭い話ですけれども、当時はまだロック幻想なるものが残っている時代でしたから、みんな一言言いたがったんですよ。それがまた楽しかったわけです。

 この作品はハルメンズのデビュー作品です。さほど売れたという記憶はありません。しかし、それぞれのメンバーが後に活躍していますから、結構後追いで聴いた人も多いんじゃないでしょうか。私もその一人です。

 たとえば、サエキさんは、のちにモーニング娘。のデビュー曲の作者として有名になります。ロック評論家としてもかなり活躍されていて、私などは同世代ですから、彼の書いていることには大いに共感いたします。

 この作品に収められた曲のうち、「昆虫群」と「レーダー・マン」は後に戸川純さんの重要なレパートリーとなっていきます。それに、この作品には、ピチカート・ファイブなどで活躍する野宮真貴さんも参加しています。この辺も後追いポイントですね。

 サウンドの方は、当時の言葉で言うテクノなので、デトロイト・テクノなどを思い浮かべられても困ります。今の時代に照らせば、これは普通のポップです。時代を先取りしているとかそういうことではなくて、楽器の進化につれてこういうサウンドが自然に当たり前になっただけです。

 SOBUサウンドはすなわち普通のポップであったということでしょう。それが悪いわけでは全くありません。正面からポップスに挑んだ作品ということと評価したいと思います。当時、いろいろとごちゃごちゃ言ってほんとすいません。

 若干、音楽的選良主義がほの見えるきらいがないわけではありませんが、ここは素直にポップを楽しみましょう。

ハルメンズの近代体操 / ハルメンズ (1980 Flying Dog)