キャバレー・ヴォルテールはダダイズムの本拠地であったチューリッヒのナイトクラブの名前です。パンク自体をシチュアシオニスト運動と絡めて語る人もいるように、欧米では日本で考える以上に、アート活動とロックは同じ領域を共有しています。

 ダダイズムは20世紀初頭の運動ですから、キャブスことキャバレー・ヴォルテールと直接関係があるわけではありません。しかし、キャブスがこの作品で展開しているカットアップやコラージュの手法はダダイズムと相通じるものがあります。

 この作品が発表された1980年前後には、日本ではロック・マガジンがダダイズムとポスト・パンクの作品群を絡めて紹介していましたし、イギリスでも同様の捉え方があったと承知しています。そんなわけで、トリスタン・ツァラはもとより、フーゴ・バルやクルト・シュヴィッタースなど、ダダイズムのスターは比較的馴染みが深いんです。

 CDに戻りましょう。この作品は、キャブスの2枚目のアルバムです。当初の発売はラフ・トレードからでしたから、日本盤も発売されていたはずです。

 キャブスは歴史の長いバンドですし、のちのクラブ・ミュージックに大きな影響を与えたバンドとして、さらにインダストリアル・サウンドの生みの親の一人として高く評価されるバンドです。そんなキャブスの初期の姿がここに記録されています。

 メンバーの写真をコラージュしたジャケットはサウンドをよく表しています。まず、コラージュだというところ。音の方もさまざまな音が切り貼りされています。それから色調です。マゼンタが少し混じっていますが、基本はどんよりしたグレーです。

 リズム・トラックにギターやエレクトロニクス、会話やノイズをコラージュしたサウンドですが、決してカラフルではないということが言いたいわけです。そして、ジャケット写真もピンボケだったりするように、決して一般的に言う綺麗な音で作られているわけではありません。しかし、そこがツボにはまると何とも言えない快感が押し寄せてきます。そこが面白いところです。

 今のクラブ系の音楽のルーツ的な意味合いもあります。確かに手法的には類似が認められるんですけれども、どこが違うかと言いますと、機材が違います。リズム・ボックスの音がどうしてもペラペラなんです。そこに時代を感じますし、ビート感覚の違いまで感じてしまいます。

 キャブスは高く評価されていると書きましたが、活動当時から評価が分かれることも多かったと記憶しています。彼らの生真面目すぎるところが評価の分かれ目です。やっていることは面白いのですけれども、どうにも真面目すぎて突破力に欠ける、そんな評価がついてまわります。ちょっと残念なバンドだと私などは思ってしまいます。好きなんですけれども。

 この作品の中では「ディス・イズ・エンターテインメント」という曲が秀逸です。じーこらじーこらなるリズムに乗せて、処理されたどすの利いたボーカルがかっこいいです。作品全体も隙がなくて、やはり真面目なバンドだなあとしみじみと思わせます。この作品では真面目さが吉と出ています。

Voice of America / Cabaret Voltaire (1980 Rough Trade)