2作続けてアコギによる弾き語りアルバムを出した人に「アンプラグド」はないでしょう。そもそもプラグに差していないわけですから、抜くこともできないはずです。と、お決まりの小言を一つ冒頭に置かせて頂きます。

 MTVのアンプラグドは秀逸な企画でした。MTV史上、最も成功した独創的な企画だったと思います。クラプトンを始め、ロッド・ステュワートなどの往年のミュージシャンの実力をまざまざと見せつけて世間をあっと言わせました。そしてニルヴァーナやパール・ジャムのような電気バリバリの人たちの新たな顔を見出す喜びを与えてくれました。

 ディランは当然前者の方です。ネヴァー・エンディング・ツアーを始め、地道に活躍を続けてはいましたけれども、世間的には半ば忘れられた存在だったディランを担ぎ出すことによって、ディランの再生を試みたものと言えると思います。

 それはディランにとって嬉しいことだったのかどうか。かなりしつこくラブコールを送られていたようで、1993年11月にはニューヨークのクラブでアンプラグドのパフォーマンスを行っています。しかし、これはあまり意に添わなかったようで、MTVによるアンプラグドの収録にはなお1年を要しました。

 ディラン自身は「ぼくは昔のフォーク・ソングをアコースティックな楽器でやってみたかった」そうです。前二作の充実ぶりを見ているとこれは当然のことでしょう。弾き語りではなく、アコースティックなバンドでやる、というアイデアは前作の時に一度試みたことでしたし。

 しかし、MTVの意図はもちろんそうではありませんでした。MTVの「オーディエンスに合うものは何かという情報を外部から色々得た」結果、ここでは名曲ばかりが並ぶことになりました。「天国への扉」「ライク・ア・ローリング・ストーン」「見張り塔からずっと」「時代は変る」などなど。

 癖玉はわずかに3曲「ジョン・ブラウン」「シューティング・スター」「ディグニティ」のみです。結果、ディランは「ぼくへの先入観で作られたものを演奏したような気がした」という述懐を残しています。あまりハッピーなわけではなかったんですね。

 しかし、「廃墟の街」などは曲が始まって、最初の決め台詞のところで初めて観客が気づいて拍手が起こるほど曲のアレンジが変わっています。他の曲も多かれ少なかれそうで、先入観通りというほどではないと思いますよ。

 そんな鬱屈もあるのですけれども、このアルバムは久しぶりにバンド演奏が楽しめる好盤です。演奏は当時のツアー・バンドということで、ぴったりと息が合ってとても充実しています。ディランの唄もリラックスした風情でとても気持ちがいいです。

 どちらかというと泥臭い風味の粘っこい演奏はアメリカンならでは。ルースな魅力が半端ないです。特にディランを含めたギター陣がいいですね。観客も大いに盛り上がっていて、気軽な気持ちで聴けるいい作品です。

Unplugged / Bob Dylan (1995 Columbia)