ミック・ジャガーが70歳で頑張っていると話題ですが、ジュリエット・グレコに比べればまだまだ小僧です。グレコさんは1927年生まれですから、87歳です。87歳でこの歌声は凄いです。一瞬、誕生年は誤植かと思って目を擦ってしまいました。

 ジュリエット・グレコさんは、言わずと知れた現役最高峰の女性シャンソン・シンガーです。フランス語では、「歌詞の内容を適確につかみ、自分らしい歌い方をする人」をアンテルプレートと呼ぶそうです。まさに彼女のことですね。

 この作品は、グレコさんが初めてシャンソン界の巨人ジャック・ブレルの歌だけで作ったアルバムです。ブレルさんは1978年に亡くなっていますから、随分昔の人のような気がしますが、グレコさんよりも年下です。

 大たいグレコさんのプロフィールには、マイルス・デイヴィスやセルジュ・ゲンズブールなどのミュージシャンはもとより、サルトルやボーヴォワール、カミュといった教科書のなかの文豪までが同時代人として出てきます。とにかく凄いですね。

 ジャック・ブレルの曲は最近では元ソフト・セルのマーク・アーモンドが歌っています。私にはそちらで馴染みがあります。彼の歌はかなりシャンソン的だと思いましたが、こうして本場のシャンソンを聴いてみますと、やっぱりロックでした。

 ここで聴かれるのはまことに正統派なシャンソンです。古臭いわけではありません。見事に現代に息吹いています。夫であり、ブレルのピアニストだったジェラール・ジュアネストさんのピアノを始めとするミュージシャンの演奏も実に正統派です。それが奥深い。洗練されたお洒落な演奏です。

 そして歌声は性別を超越しています。随分と強面でどすが効いていて素晴らしい。まるで演劇を見ているようです。この感じは、そう、日本で言えば美輪明宏さんでしょう。紅白での「ヨイトマケの唄」は記憶に新しいところですが、まさにあれを思い浮かべて頂くと雰囲気が分かります。

 フランス語が分からないのが残念ですけれども、力強く語り、そして歌うグレコさんの歌声は素晴らしいです。枯れているようで全く枯れていない。毅然としていて、もう恐ろしいくらいです。そのうえ、グレコさんはオーケストラと同時録音する姿勢を貫いているそうで、この作品も例外ではありません。凄いです。

 お互いを認め合っていたブレルとグレコですが、ブレルの歌の女々しいところはグレコさんの気に入らなかったようで、「まるで濡れ雑巾のよう」だと一刀両断です。そして、ブレル最大の国際的なヒット曲「行かないで」は、このアルバムでは去って行く方が命令されているかのような歌になっています。恐ろしい。

 グレコ流シャンソンの今が詰まった作品であると同時に、シャンソンの凄味を初心者にたたきつける凄いアルバムです。

Greco Chante Brel / Juliette Greco (2014 Respect)