「知ってる?それとも、知らない?」というのが直訳タイトルです。2008年のボリウッド映画界に颯爽と現れた爽やかな映画でした。そして、このサウンドトラックを制作したARラフマーンはインドでもっとも権威のあるフィルム・フェアー・アウォードにて最優秀音楽監督賞を取りました。

 映画は、幼馴染で仲のとてもよい若い男女が、お互いに恋をしているということに最後に気がつくという回りくどいですが、ぐっとくるお話です。最後は、アメリカへ旅立とうとする女の子を空港まで乗り込んで寸前で思いとどまらせるという息詰まる展開です。それも馬に乗って空港に駆けつけるんですよ。

 サラブレッド家系に生まれた新人俳優イムラン・カーンと、南部インド映画界では活躍していましたが、ボリウッドでは新顔だった、可愛らしい新世代女優のジェネリア・デ・スーザというとても新鮮な二人を起用して大当たりしました。

 このサウンドトラックはそんなボリウッドに吹いた新風を見事に表現した作品になっていて、ヒット・チャートを独走いたしました。ARラフマーンの多才ぶりが堪能できる作品なんです。ちなみに彼がアカデミー賞を受賞した「スラムドッグ・ミリオネア」とほぼ同時期の作品です。

 アルバムは、ジェネリア演じるアディティのテーマ曲となる「カビ・カビ・アディティ」から始まります。これがR&B風なんですね。インド風の節回しですけれども、何とも小粋な佳曲でして、それまで無名だったシンガーのランシド・アリを一躍有名にしました。これは本当にいい曲ですよ。

 そして続く楽曲はダンスフロア向けの楽しい曲「パップ・キャント・ダンス」です。インド人の琴線をとらえた曲で、大ヒットしました。確か結構長くチャートの1位をキープしていたと思います。お約束のリミックス・バージョンもアルバムの最後に収められています。

 この2曲の大ヒットの他にも佳曲が揃っていますが、中でもラフマーン自身がボーカルをとる「トゥ・ボレ、メン・ボルーン」が注目です。4ビートのジャズ・チューンなんです。大作というよりも小品なんですけれども、ラフマーンの引き出しの多さを感じさせてくれます。

 もちろんインド的な楽曲もそっと収められています。「ジャイ・ホー」の男声歌手スクヴィンダー・シンが歌う「ジャアネ・トゥ・メリ・キャ・ヘー」がそれです。

 そんなわけで、「スラムドッグ・ミリオネア」のアカデミー賞受賞時に、ラフマーンにはそれよりもいい曲が沢山あるんだと主張したインド人の3分の1くらいは、この作品を念頭に置いていたと思いますよ。

 ラフマーン先生の凄いところは、こんなに多彩な楽曲を並べても、決して質は落ちませんし、何とも品がある風情が変わらないところです。不世出の大音楽家のちょっと変わった見事な作品です。

 最後に小ネタを一つ。ジェネリアさんはその後、映画の中で挙げた結婚式があまりに正式だったために、本当の結婚だと認定されそうになるというインド的なスキャンダルに巻き込まれてしまいました。面白いですね。

Jaane Tu...Ya Jaane Na / A.R.Rahman (2008 T Series)